せとさんスポーツ

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【読書感想文「小説・夏目友人帳」】漫画もアニメも知らないぶん新鮮に感じ劇場版が楽しみに

 小説を読もうと書店に出かけ、ノベルスズコーナーを眺めていて見つけたのが「小説・夏目友人帳」です。
「夏目友人帳」について、私が知っているのは、そのタイトルのアニメが深夜によく放送されているな、くらいのものでした。
帯文には「コミックス累計800万部のメガヒットあやかし譚「夏目友人帳・待望の初小説化」と記述されています。
その下に小さな文字で「完全オリジナルストーリー」と書かれている部分が気になって、これも縁だと思い、読んでみることにしました。

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夏目友人帳とは

「夏目友人帳」は、2003年から白泉社の月刊誌「La La」で連載されている、緑川ゆきによる漫画作品です。連載は2017年現在も続いていて、単行本は22巻まで発行されています。
アニメは2008年に第1期が放送され、2017年には第6期が放送されました。
音楽朗読劇も好評で、2018年1月にも公演が開催されます。
さらに2018年は、劇場版も公開される予定です。
どうやら、インターネットで調べた限りでは、「夏目友人帳」は、連載開始から約15年が経過した今、ブームが爆発しているようです。

私は、これまでマンガでもアニメでも「夏目友人帳」の世界に触れたことがありません。タイトルから想像していた内容は、夏目さんという孤独ぎみな女の子とクラスメイトたちが波乱を乗り越えて友情を深めていくような、学園ものでした。
全然違いました。そもそも夏目さんは男子でした。

小説版はオリジナルストーリーだった

「小説・夏目友人帳」は、白泉社から「花とゆめコミックススペシャル・ララノベルズ」の1冊として2013年に発行されました。著者は緑川ゆきと村井さだゆきです。
雑誌に収録された2編と、書き下ろしオリジナルストーリーが1編の短編集です。小説を担当したのは村井です。
村井さんは脚本家で、アニメや特撮もの、ドラマなど、多くの作品の脚本を手がけています。「夏目友人帳」のテレビアニメシリーズも、第3期からは村井さんが脚本を担当しています。
この感想文では、巻頭に収録された、オリジナルストーリーの「ランプ堂奇譚」について記述します。

まずは最初のページの登場人物紹介でお勉強です。
主人公の夏目貴志は、妖怪が見える少年です。強大な妖力を持っていた祖母の遺品「友人帳」を受け継いでます。機会があるごとに、そこに書かれた「名」を妖怪たちに返しています。
「斑(まだら)」という大妖(おおあやかし)は、いずれ友人帳をもらう約束で、夏目の用心棒をしています。この「相棒」が中心となって、ストーリーが展開されていきます。
「ランプ堂奇譚」では、多軌透(たきとおる)という夏目の友達の女の子と、裏で妖祓い屋(あやかしはらいや)をしている人気俳優の名取周一が出てきます。作中での描かれ方から想像すると、この2人は「夏目友人帳」の世界で定着しているサブキャラクターなのでしょうか。
小説は、最初の3ページほどで、夏目の生い立ちが紹介されます。妖怪と呼ばれるものの類が見えてしまうこと。同級生から嘘つきと呼ばれ孤独を味わったこと。祖母レイコのこと。ニャンコ先生のこと。
簡単な説明で「背景」を把握すると、夏目がタキと会うところから、話が転がり始めます。
この作品から感じたのは、主人公やストーリーの温和さです。
妖怪が出てくる物々しいストーリーなのに、落ち着いています。

原作の「やさしい眼差し」を忠実に再現しつつ

ノベライズ本にも2つの種類があるようです。
1つは、マンガやアニメ、ドラマなどの原作を忠実に再現したもの。ストーリーや作中のセリフがほとんどそのまま、小説に書き起こされているパターンです。
もう1つは、原作の登場人物や世界観を基にして、オリジナルの小説が作られているもの。
「小説・夏目友人帳」の場合は、マンガやアニメにはない話を、村井さんがオリジナルストーリーとして作り上げています。
この点について、村井さんは「あとがき」で、ノベライズの話を受けた時に大切にしたのは「空気感を大切にすること」だったと述べています。空気感を作る原作の魅力は「いつも読む人を安心させる優しい眼差し」と表現しています。
読んでいると、その空気感は、確実に伝わってきます。

対立しても暴力より話し合い

では、なぜ優しい話に包まれているのかを掘り下げてみます。

まず、登場人物です。
「ランプ堂奇譚」では、名取と夏目が、妖怪たちの扱いをめぐり対立しそうになりますが、妖怪が夏目に襲いかかると、名取はいったん、妖祓いとしての仕事を止めて、夏目を守ります。
その上で、名取は妖怪たちが、なぜ人間に反抗するのか、解決方法として、妖怪たちと話し合う事を選択します。
登場人物や登場妖怪が、ただ戦うのではなく、お互いを理解しようと歩み寄る姿勢が、物語をやわらかくしています。

読者は実際に妖怪を見たことはない

 過去に何があったのかは、気を失った夏目の夢の中で明らかにされていきます。
この作品は「俺」である夏目の一人称視点と、「芳美」という女性の三人称視点がクロスしながら描かれています。同じ出来事を夏目側と芳美側から見る場面が何度かあります。
読者は「俺」目線を中心に物語を読みます。しかし読者には妖怪が見えていないから「芳美」のほうが近い存在です。「夏目友人帳」の世界観では、読者も妖怪が見えてしまうことが当たり前になっているのかもしれません。「夏目は妖怪が見えているし、マンガやアニメにも妖怪が出てくるけれど、読者は視聴者である私たちには、実際は妖怪などいっさい見えていないんだよ」という大前提をつかめる構成です。

ゲスト登場人物の心の動きをじっくり描く

 「俺」である夏目は、「俺が俺が」と自分から前に出ていくキャラクターではありません。思ったことや感じたこと、信念などは要所で述べられている程度です。

そのぶん、比重が置かれるのが「その回の主人公や登場人物、妖怪たち」の心の動きです。
「ランプ堂奇譚」では、タキの祖父と交流があった骨董品店の女性や、その孫である芳美です。
なぜ祖母がタキの祖父と手紙のやりとりをしていたよかを知りたい芳美は、妖怪の存在には気がついていませんが、彼らが目の前にいることを否定していないフシもあります。
「物に魂があるのかどうか私にはわかりません。仮に魂があるとして、彼らがこの店をどう思っていたのかも。でも祖母は一つ一つの品物を分け隔てなく全て愛し、慈しんでいました」
芳美の祖母の心意気を感じたからこそ、妖怪たちは行動に出て、亡くなった祖母と、妖怪たちの唯一の心残りを晴らそうとしたのでしょう。

 

小説・夏目友人帳 (花とゆめCOMICS)

小説・夏目友人帳 (花とゆめCOMICS)

 

 

小説→劇場版→漫画・アニメの順も面白い

 原作の緑川さんはあとがきで「漫画の夏目友人帳でお付き合いいただいている読者様はもちろん、知らない方にもぜひ手にとって頂きたい作品です」と締めています。
ノベライズ本には「原作の元々の世界観はみんなだいたいわかってるよね」というような、小説から入る人が置いてけぼりになりかねない「前提条件」の作品をたまに見かけます。
しかし、この作品は、漫画やアニメの世界観を丹念に追いつつも、村井さんによる、小説だけの世界観がミックスされています。そこに「オリジナルストーリー」としてのノベライズ版の魅力があるのかもしれません。

全体的に、ゆったりとストーリーの流れを楽しめる作品です。村井さんは、ふだんは脚本家として30分、60分など時間制限のある物語を書いていると思われます。この作品は小説だから、物語が時間に追われることがない点が、ゆったり感を醸し出している気がします。

2018年に公開されるという、劇場版の「夏目友人帳」。マンガやアニメの「夏目友人帳」を知らない人間だからこそできる「あの小説の映画版!」と、ファンの皆様とはちょっと違う視点で、劇場公開を楽しみにします。