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【読書感想文「相棒season15-中」】映像ではショッキングすぎる「帰還」を読書で振り返る

この記事ではドラマ相棒のノベライズ本「相棒season15中」の読書感想文を述べています。

受け入れられない理不尽

2017年の元旦に放送された「相棒15」の「帰還」は、お正月気分を吹き飛ばす衝撃回でした。
都心から離れた町で起きた連続殺人事件の凄惨さと、犯人の理不尽な動機は、到底受けつけられるものではありません。
「相棒」といえば、どの作品も、何度見ても面白いから、夕方の再放送を「つい」見てしまいます。夕方の再放送は視聴率も高いようです。
しかし「帰還」は「ヒマか?」の角田課長のイメージで言うと「再放送?俺は遠慮しとくわ…」と逃げたくなります。
見ていて、気が滅入ってしまうのです。
そういう回もあるのが「相棒」です。
視聴者の期待を裏切ってでも伝えたいことが、あるはずです。
再放送は重いけれど、もう一度、ストーリーとテーマを追いかけてみたい。
そこで私は、「相棒」のノベライズ本を読むことにしました。

読書で「相棒」

「相棒」はテレビ朝日と東映の制作で、2000年に始まったテレビドラマ番組です。
水谷豊さんが演じる杉下右京警部とその相棒が数々の難事件を解決します。2017年秋からは16シーズン目がスタートしました。
「相棒」のノベライズ本は、2007年にプレシーズンの3作品を収録したものが発行されてから、全シーズンにわたり、順次刊行されています。
私はどの回もテレビドラマの印象が粘りついているので、小説というよりも台本・脚本の集大成と想定して、読んでいます。
「相棒」は、通常回は1時間弱の間に人間ドラマが凝縮されています。テンポの速さやどんでん返しなど、一瞬も見逃せません。
これまで「相棒」のノベライズ本を読んできて、凝縮度が高い作品ほど、ノベライズ版では、少し間延びした感覚になっていました。
脳内で再生されるテレビドラマの展開に、小説の読者としてのスピードが追いつかない焦りを感じます。
逆に、ストーリーはあまり急展開しなくても、登場人物の心境の変化が細密に描かれた作品は、小説として読むと、新たな味に気がつきます。
「相棒11」や「相棒12」の頃のテレビドラマ作品とノベライズ小説を比較すると、テレビで見たときには、さらっと流していた回について、小説を読んで「あの時のこの登場人物の心境は、じつはこうだったのではないだろうか?」と想像が始まり、自分だけの「相棒」ワールドが広がっていきます。
「相棒15」のノベライズ本も、テレビドラマを見た時にはあまり気に留めていなかったシーンにアンテナが引っかかってきます。

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「相棒season15中」は、2017年10月に発行された「相棒season15上」の続刊として、2017年11月に、朝日新聞出版から文庫本として発行されました。
「相棒15」の第7話から第12話までが収録されています。
脚本を担当したのは徳永富彦、金井寛、宮村優子、真野勝成、山本むつみ、池上純哉の6人で、それぞれ1話ずつ。ノベライズは碇卯人(いかり・うひと)です。

さあ「帰還」と向き合います

問題作の第10話「帰還」を読んで、さっそく「あの回はどこにどう気が滅入ってしまったのか」を検証しました。
テレビドラマ作品のことは忘れて、読みながら犯人の心理を解いていこうとしました。ムリでした。
246ページに、右京さんと大河内監察官が事件を振り返る場面が出てきます。
《「警察をからかい尽くす遊びをたまたま思いついたのでしょうねえ。そして、最悪な偶然として、彼にはそれを可能にする力があった」
右京のことばに、大河内は、やりきれない思いになった。
「そんなことのために犠牲が…」》
さんざん暴れまわった真犯人は、248ページで
《恨みとか憎しみとかじゃなくて、楽しいっていうだけの動機じゃ駄目なんですか?》
と、最後まではしゃいでいます。
他人の心はわからないけれど、できる限り理解して、今後に生かしたい。そう思っても、どうしてもこの犯人は理解できないし、受けつけられません。私の人生の教科書である「相棒」は、残酷でした。
右京さんは犯人に言います。
《人間はいつもギリギリの淵に立っている。誰だって、人の身体が簡単に壊れること、心が簡単に操れることを知っているんです。それでも、自らの意思でそうしないことを選んでいる。間違いを犯せば後悔し、自分を責め、淵の下から這い上がろうとする。そういう人間そのものの姿をあなたは知らない。永遠に理解できない》
しかし犯人は
《でしょうね。それがなにか?》
刑事ドラマのお約束をぶっ飛ばす展開です。

右京さんが、通用しない!
「こういう人もいるんだな。怖いな」
としか思えません。
普通の人間が殺人を犯すのが、世の中です。動機がまったく見当たらない殺人事件もあります。
この記事を書いている2017年の11月は「座間市遺体遺棄事件」が連日報道されています。容疑者は、9人もの人の命を、2か月の間に奪ったと供述しているようです。
そういうことが現実にあるんだな、と心に留めておくしか、今は方法がないのかもしれません。
我々は、「帰還」に出てきたような、一般常識では通用しない人物が近くのリアルに潜んでいるかもしれないことを、しっかりと刻んでおく必要があります。

 

相棒 season15 中 (朝日文庫)

相棒 season15 中 (朝日文庫)

 

「心」が壊れていく時代

もはや人の心に常識は通用しないのかもしれません。
先ほどの右京さんの「誰だって、人の身体が簡単に壊れること、心が簡単に操れることを知っている」というセリフは、逆に、簡単に壊されてしまったり、操られてしまったりする人がいることを指しています。

現代は、とくに心の壊され方や操られ方が強烈です。
人の心は、折れやすいものです。
この本に収録された第7話「フェイク」や第8話「100%の女」では、壊れてしまった心をどうにもできなかったり、一度壊れた心を立て直そうともがく人が登場します。
「フェイク」では、あまりの悲しみに現実から目を背けてしまった女性が出てきます。
53ページに、彼女を気遣う右京さんのセリフがあります。
《受け入れるなんて、到底できることではないでしょう。心を守るために現実とは違う世界を作り出したとて、誰が責められるでしょう》
《時間が必要です。少し長い時間になるかもしれませんが、彼女が立ち直ってくれることを祈りましょう》
そこには「彼女なら立ち直れる」という確信があります。今は心が壊れてしまっているけれど、傷に包帯を巻いて適切な療養をすることで、現実の世界を受け入れられるはずだ、と。

負い目を隠したい

「100%の女」には、12年前に男に襲われて、今は心理カウンセリングルームに通っている女性が登場します。
女性は自分がカウンセリングルームに通っていることを隠し通すために、重大な嘘を作ってしまいました。93ページから94ページにかけて、女性は心情を吐露します。
《カウンセリングはわたしにとって心のバランスを保つためのもの。決して後ろめたいものではない。でも、そう思わない人もいる》
右京さんは《100%馬鹿げた偏見》について女性に理解を示しますが、彼女がそれを理由に事実をねじ曲げた件に関しては
《あなたは偏見を恐れるべきではなかった》
と断罪します。女性は
《わたしは、そこまで強くなかった》
と自嘲して、職を辞する決意を固めました。
右京さんは「人は犯した罪を法で裁かれなければならない」という信念を貫いています。法のもとの正義と平等です。
視聴者から「冷酷すぎる」と思われる場面もたくさんあります。
しかし、基本は人の心への愛にあふれています。

右京さんの人間愛

量刑の義務をまっとうした幸子さんに「花の里」を任せるやさしさが右京さんと視聴者をつないでいます。
本書の第12話「臭い飯」は、元受刑者の社会復帰を促す「協力雇用主制度」と、前科者に対する雇用主の「決めつけ」が、悲しい事件の引き金となりました。
右京さんは、自分から罪を犯して刑務所に戻ろうとする男性に対して、344ページで
《塀の中に逃げてはいてはなんにも変わりませんよ。あなたは前科者だからこそ、塀の外で強く生きなければならないんです》
と厳しく諭しました。
叱咤が相手に伝わったと確信した右京さんは
《今度、娑婆に戻ったら、また僕のところに来てください。僕でよければ、食事ぐらい付き合いますよ》
と声をかけています。
法は、人々の抑止力になります。
「帰還」で右京さんが発した「それでも、自らの意思でそうしないことを選んでいる」という基本秩序によって、強い者も弱い者も人として平等に幸福になれる世界が構築されます。
戦争やテロを否定する気持ちはみんな同じ…と思っていても、「帰還」の犯人のような人は、やはりいるようです。
「ゴジラ」や「進撃の巨人」では、人が相手を理解できる、できないの判断をする猶予もなしに、危険にさらされます。パニックが生まれます。何が起きるか、未来のことはわかりません。
受けつけられなくても、受けつけなければ「殺される」。

思考停止では終わらない

「帰還」とは「使命・任務を終えて元のところに帰ること」です。「帰還」のストーリーは、最後に、右京さんと冠城くんが特命係に帰還します。
その裏では、何人もの警察官が「帰還」できずに、命を落としました。
特命係の2人は、その悲しさを焼きつけて、「相棒16」の世界でも正義をまっとうしています。
「平成の切り裂きジャック」や「村木重雄」など、「相棒」史上に残る凶悪犯にも、「この人の人生の分岐点はここだったのかなあ?」とその心に入りこむ余地がありました。
「帰還」の犯人は、どこまでも理解できません。
理解できない謎こそ、どうにかして解きたい。
右京さんでさえ止められない暴走を止めたい。
「相棒15-10帰還」のドラマを映像で接するには、私にはハードルが高すぎます。
文字は、やさしい。
読書でこそわかる「相棒」があるんだな、と実感しました。

 

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