この記事ではドラマ【相棒】史上最高の名作「寝台特急カシオペア殺人事件」の感想などを述べています。
- 33年越しの恨みを抑えきれず
- 逃げても逃げなくても殺される?
- 劇場版に負けないスケール
- 9人の容疑者
- お正月に求められる「相棒」とは
- もし自分が根元だったら
- もし自分が公江だったら
- 「相棒」だっていつかは終わる
- さあ犯人は誰でしょう?
面白い!この回は超絶面白いです。
「相棒のDVDを借りようと思うんだけど、おすすめの回はどれ?」と訊かれたら、ためらいなしに「カシオペア!」と答えます。season6のお正月スペシャルです。
私は【相棒】における現時点での史上最高傑作は、この作品だと思っています。
33年越しの恨みを抑えきれず
堂上公江の時間は、はるか昔に止まっていました。
安田講堂を占拠する学生と機動隊との闘い。ヘルメットをかぶり、ゲバ棒を握りしめた学生たちの行進。70年安保闘争。
混沌とする社会のうねりの中、武装をエスカレートし、ゲリラ化した極左グループの中には、爆弾を武器にするものも現れました。
その中の一人は、工学部の学生だった藤北を脅迫して、爆弾を作らせていました。
1月2日。藤北の部屋で、爆発事故が起きました。藤北は死に、巻き込まれて負傷した女子学生が一人、いました。
堂上公江です。
公江のお腹の中には、藤北との間にできた新しい命がありました。藤北だけでなく、子供の命も奪われました。
許せない。この世の中のすべてが許せない。なによりも、藤北を脅して爆弾を作らせようとしていた男が、捕まりもせずに逃げおおせたことが許せない。
あれから33年が経過した1月2日。
公江は、自分の怨敵が、テレビで成功者としてインタビューを受けているところを見ました。
その男は、藤北が死んでからすぐに逃げた後、大学に復学。官僚になり、今や時代の中心人物。
公江にとって、自分の時間はこのまま永遠に止まり続ける。ならば、憎いあの男を殺して、自分も死のう。
公江は、意志を実行するために、上野駅から寝台特急「カシオペア」に乗りこみました。
逃げても逃げなくても殺される?
このままでは、暴力団絡みの組織に殺される…。
根元尚吾は、逃げて身を隠すしか選ぶ道はありません。
しかし、警視庁の伊丹刑事に身柄を確保されてしまいました。
29歳。前歴なし。現住所は北海道。妻子を置いて東京に出てきていました。
根元は、札幌地検で公判中の事件の重要参考人です。
警視庁特命係の杉下右京警部と亀山薫巡査部長によって、東京から札幌まで護送されることになりました。
北海道警に所属する、暴力団組織のスパイによって、マークされている根元。
裁判で証言をしてもしなくても、スパイに身柄を拘束されれば、殺されてしまうでしょう。
時は1月2日。正月休みで飛行機に空席がなく、あらゆる交通手段を検討した結果、たまたま団体のキャンセルが出たのが、上野発札幌行きの寝台特急「カシオペア」でした。
右京さんと亀山くんに伴われた根元は、上野駅へ。根元が駅のホームを見渡すと、怪しい男たちがズラリ。しかしその恐怖を2人の刑事に明かすわけにもいきません。
劇場版に負けないスケール
「寝台特急カシオペア殺人事件」は、ドラマ【相棒season6】のお正月スペシャルとして、2008年1月1日に放送されました。
列車での殺人事件ものというと、アガサ・クリスティーの「オリエント急行殺人事件」が有名です。
日本の2時間サスペンスドラマ、いわゆる2サスでは「西村京太郎トラベルミステリー」が何度も放送されています。おなじみの状況設定です。
「カシオペア」は、「相棒」が列車内での密室殺人事件に遭遇したら、どんなドラマになるのか。ミステリーの真髄にチャレンジした意欲作です。
脚本は戸田山雅司さん。【劇場版・相棒】も担当した、「相棒」中期のエース作家さんです。
【劇場版相棒1】では「東京マラソン」とよく似た「東京ビッグシティマラソン」を舞台に、特命係の2人が大活躍しました。
「寝台特急カシオペア殺人事件」は、戸田山さんの脚本の中では「劇場版1」と似たタイプの作品です。
「相棒-劇場版-絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン」と「カシオペア」の正式なタイトル「寝台特急カシオペア殺人事件!上野〜札幌1200kmを走る豪華密室!犯人はこの中にいる‼︎」の2つのタイトルを比較すると「カシオペア」のほうが劇場版っぽい雰囲気が漂っています。
テレ朝・東映の、この作品への熱の入れようが伝わってきます。
お正月スペシャルらしく壮大な話です。
《関連記事追記:2018年元日スペシャルにも名作誕生!》
【相棒16第10話「サクラ」感想】もし悪い警察官に脅された高校生が拳銃を手に入れたら。2018元日SP - せとさんスポーツ
9人の容疑者
「カシオペア」は、登場人物とその相関図の設定から始まって、走る密室で殺人事件が起こり、物語が急速に展開していきます。「相棒」初心者が見てわかりやすい構造になっています。
本編は125分あります。2時間超え。
この作品を鑑賞する時は、時間に余裕を持って、一気に最後まで見ることをおすすめします。
最初から最後まで、ムダな場面が一瞬たりともありません。散りばめられた伏線が見事に回収されていきます。
カシオペアの車内で殺されたのは、西麻布でクラブを経営しているという津島悟。
走る密室に閉じこめられた容疑者は、特命係の2人と彼らに守られている根元を除く、9人です。
(画像引用・テレビ朝日、東映)
左上は人気モデルの三樹ライナ。
その右がライナの友人の折原国子。
右上が増田悦郎、右下が増田二郎の「兄弟」を名乗る2人組。しかしその正体は右下のチャラいイケメンが映画新人賞を総なめした俳優の羽鳥亮矢、悦郎は羽鳥のマネージャー。
中段右横は鉄道マニア?の保坂有三。
中央は夫を亡くして一人で旅行中の堂上公江。
左下が大学教授の安藤で、その上が息子の博貴、安藤の右横は妻の仁奈子。
(↑引用・朝日文庫「相棒season6 下」2010年)
それぞれ1号車と2号車の個室に部屋を取っています。
1号車には一つ、空き部屋がありました。
お正月に求められる「相棒」とは
「カシオペア」で起きた事件の犯人と真相が、本編の半分を過ぎた頃には明かされます。
函館で犯人と遺体が降ろされると、今度は北海道を舞台にした「後半戦」が始まります。
「カシオペア」での殺人事件。
根元の生死をめぐるサスペンス。
洞爺湖パークホテルで待ち受ける衝撃。
この話は「面白い!」としか言いようがありません。
お正月は、実家に帰省してのんびりテレビを見る人が普段より増えます。
「お、元日から相棒やるのか。ヒマだし見てみるか」と気軽にチャンネルを合わせる人もいるでしょう。
視聴者からすれば、元日の夜の2時間以上を「相棒」にあずけています。
「相棒」には感動回から衝撃回まで、名作はいくつもあります。
お正月に求められているのは、断然「面白くて、スカッとする話」です。
元日から救いようのない重たいだけの話を見せられて、モヤモヤしたくありません。
「カシオペア」は、走る密室の中で右京さんがキレキレの推理を披露する姿や、随所に盛り込まれたアクションシーンなど、家族や仲間、カップルで見ても、一人で見ていても、最後まで楽しいまま目が離せない、「殺人事件」なのに楽しい話です。
「楽しい!」作品ではありますが、改めて振り返ると、登場人物の心の動き方について、考えさせられます。
もし自分が根元だったら
根元の心は、常に震えています。
カシオペアに乗っていても、いつ誰に襲われるかわかりません。
ついには、列車の中で殺人事件が起きてしまいました。
犯人は、本当は自分を殺そうとしていたのではないか。
その人物は、同じ列車の中にいます。
次に殺されるのは、自分なのではないか。
その恐怖に、耐えられるかどうか。
函館に到着した時、根元は逃げようとしました。逃げられませんでした。
札幌に到着してから、ついに逃げてしまいました。
ドラマ視聴者は「おお!根元はこれからどうなるんだ!」とドキドキします。
根元は命がけです。
冷静になれば、警察に匿われたままであるほうが安全なのは分かっています。
しかし彼には、守るべき大切な家族がいました。
何の罪もないのに、暴力団絡みの組織の密会を見てしまったばかりに、命を狙われてしまう。
北海道の警察にも内通者がいる。
せっかく東京まで来たのに、見つかって北海道に護送される。
悪夢です。
誰も信じられません。
特命係の2人に命を助けられて北海道にたどりついた根元。
しかし、このドラマの終了後に、暴力団絡みの組織によって消されてしまうとも限りません。悪い奴というのは、雨後の筍のように次々と現れるものです。
さあ、どうする?
根元の人生は、私には大きな参考になりそうな気がします。
彼は、これからどう生きるのか。
彼を参考にして、自分はどう生きるのか。
もし自分が公江だったら
堂上公江の、心の中の時計は止まっています。
永遠に動くことはないほどに、藤北を想い、彼を殺したも同然の男を恨んでいます。
さあ、殺そう。
彼女は右京さんに諭されました。
右京さんは、公江にやさしく語りかけました。
「あなたが悲しみに心を閉ざし、強引に時間を止めようとされても、星たちはこうして動いているんですねえ。いままでも、これからも。この星、ご主人そのものじゃありませんか」と。
「あなたの中の時計を、また動かす時が来たのではありませんか?」
と問いかけられた公江が、これから時を動かして生きるとしたら、彼女はどうすれば良いのか。
心の中の憎悪を消すことはできたのか。
できていなかったとしたら、これから消すことはできるのか。
33年も時を止めてきた自分が「現在」と、どう向き合うのか。
やり直すとは、どういうことなのだろうか。
「相棒」だっていつかは終わる
私は以前、北海道に行く時に、空路ではなく、寝台特急の「北斗星」を選んだことがあります。
現地に着いてからの行程よりも、そこまでの移動にワクワクしていました。
夕方から、翌日の昼前まで「北斗星」に乗っている間は、ワクワクが止まらずに一睡もしませんでした。
今はもう、「北斗星」も「カシオペア」も、一般列車としては廃止になっています。
時間は常に動くものです。とはいえ、止まってしまう時間もあります。
止まってしまった時間を動かす勇気。
「北斗星」や「カシオペア」に感じていたワクワク感と似た楽しみが、「相棒」にあります。
いつかは「相棒」シリーズも終了してしまうでしょう。
その時に、そのまま時間が止まってしまうのか。そこから時間を動かすことができるのか。何事も、覚悟が必要です。
さあ犯人は誰でしょう?
私がおすすめする、現時点での【相棒】史上最高傑作が「寝台特急カシオペア殺人事件」です。
まあ、深く考えることもなく、めっちゃ楽しいんだ!とにかく楽しいんだ。
「カシオペア」については、それでいいんじゃないかなと思います。
「相棒」の傑作と迎える新しい年って、良いものですね。
なお、カシオペアの車内での殺人事件の犯人は、この記事には書いていませんので、本編を見てのお楽しみです! (^o^)/
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