この記事ではドラマ【相棒8第14話「堕ちた偶像」】の感想などについて記述しています。だいぶネタバレしていますので注意してください。
「スクープがある」→殺される(定番
遺体で発見されたのは、安田紘一。数々の官製談合をスクープしてきた硬派のジャーナリストです。
「官製談合」とは「国や自治体による事業などの発注の際に行われる競争入札において、公務員が談合に関与して、不公平な形で落札業者が決まるしくみ」を指しています。
雑誌の編集長に「スクープを渡す」と予告していましたが、発表前に殺害されてしまいました。
安田と仲が良かったのが、江嶋充。最近、政権を取った与党に所属する衆議院議員です。
江嶋は福祉衛生省の官僚から政界入りしました。「官僚」とは、国家の政策決定に大きな影響力を持つ公務員のことです。
産業廃棄物汚染による「美戸川病患者救済特別措置法案」の可決に執念を燃やしています。
一方で、山口七海という少女が、ビルから駐車場に向かう途中で、男に追いかけられてケガをしました。
(引用・テレビ朝日、東映。田中哲司さんが動物のお人形の話をしています。たまきさんの後ろに飾られている花は、右京さんと神戸くんからのお見舞い。さて、どちらがどっちの花を持ってきたでしょうか?)
七海は、男は代議士の江嶋だったと証言します。七海がいたビルには、死亡した安田の事務所が入っていました。
太田愛脚本は神戸くんが活きる
今回の脚本を担当したのは太田愛さんです。2018年1月1日放送の「相棒16・元日スペシャル・サクラ」も太田さんの作品です。
太田さんは【相棒8】の第2話「さよなら、バードランド」で相棒デビューしました。続く第3話「ミス・グリーンの秘密」、第11話「願い」を執筆した後、今回の「堕ちた偶像」が4本目の担当脚本です。
右京さんの相棒は、寺脇康文さんの亀山薫のイメージが強い中で、及川光博さん演じる神戸くんが特命係の相棒として本格的に参加したシーズンが「相棒8」。
「女性から見た神戸くん」のかっこよさ。やさしさ。男性の脚本陣が多い相棒ワールドに、違う角度からアプローチして、世界観を広げてくれました。
↓「相棒16」太田愛さん脚本回の記事↓
【ドラマ感想文「相棒16-3銀婚式」】もし25年間いちばん大切な人にだまされ続けていたら。 - せとさんスポーツ
これまでの右京さんのキャラクターに、神戸くんがどう絡んでいくのか。
「さよなら、バードランド」や「願い」では、事件の真犯人や大がかりなトリックを右京さんがキレキレの推理で解明します。
「ミス・グリーンの秘密」は、神戸くんと老婦人の微笑ましいやりとりから、彼の内面のやさしさが浮かび上がる作品でした。
推理の右京さん。やさしさの神戸くん。
それぞれの正義を胸に相棒となった2人は、少しずつお互いを理解していきます。
第14話「堕ちた偶像」は、2人の正義とやさしさがかみ合って、強固な絆を築く土台となりました。
衆議院議員vsジャーナリスト
安田紘一のジャーナリスト魂は、本物でした。
安田と江嶋は、阪神・淡路大震災の支援活動で知り合いました。
安田は「月刊フロンティア」の《被災地の現場から》という特集で、江嶋のことを記事にしました。
現在、江嶋は美戸川病問題に取り組んでいます。
美戸川病は、美戸川上流に不法投棄された産業廃棄物から有毒物質が川に流れ込んだことが原因です。
川の流域や河口の町に患者が集中し、中でも児童の患者に重篤化するケースが多い病気。先日も死者が出てしまったようです。
一刻も早く特措法を成立させれば、患者を救済できる…
江嶋の行動力は「江嶋マジック」と呼ばれるほど。
しかし、安田は厳しく江嶋をチェックしていました。
今の江嶋は「瀬戸際」であると。
美戸川病の患者を救いたい
「瀬戸際」とは、不都合あるいは危険な状況と接する、ギリギリのところ。辞書による例文には「地元で票が伸び悩み、当落の瀬戸際に立つ」とあります。
政治家にとって「瀬戸際」は、そこを超えられるかどうかの大きな分かれ目となります。
美戸川病患者を救いたい江嶋。
そのためなら何をしてもいいのかと問いただす安田。
安田は、江嶋が法案を成立させるために、政財官の癒着に手を染めていることを突き止めていました。
「癒着」とは、好ましくない利害関係で深く結びつくことです。例文は「あの政治家は特定の業界と癒着している」。
おっと、この例文は、今回の江嶋にそのまま該当してしまいました。
正義と正義がぶつかり合います。
こうしている間にも、患者の命が失われていく。
正しい方法でやり直せ。
最後は、自分の行為に葛藤を抱える者が、そうでないものの命を手にかけてしまいました。
その政治家は、何を守りたかったのか…
どんなにきれいな理念でも?
安田は、江嶋が議員になったばかりの頃にインタビューをした記事を、江嶋に見せようとしました。
「どんな理念も、正しい方法で実現されなければ、いずれ腐敗を招く」と。
自分の理念を実現させるために、どんな方法を使ってでも前に進めようとする人が、たくさんいます。
そうしなければ実現しないから。
理念は実現しなければ意味がないのだから。
どんなにきれいな理念でも、誰かを犠牲にして実現しようとするならば、本末転倒です。
しかし、私たちに見えるのは表面だけです。
実現したら喜ばれ、実現しなかったら批判されます。
批判されるより喜ばれたほうが嬉しいし、気持ちが良いのは当然です。
嬉しくなるために、他人にすり寄る…
そこに悪意が忍びこんだ時に、シャットアウトできるかどうか。
悪魔のささやきを断ったら、実現したいことが潰されてしまうかもしれません。それでも断ることができるのか。
手を染めてしまったら。
手を染めなかったら。
人それぞれの正義と、絶対的な正義。
分かれ目。
紙一重。
瀬戸際。
「地元で票が伸び悩み、当落の瀬戸際に立つ」。うわあ。
もし自分が究極の瀬戸際にいたら、何をどうするのか。
震えが止まらない回になりました。
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