この記事ではドラマ【相棒6第13話「マリリンを探せ」】の感想などを記述しています。
数年後の再放送で見ると
「マリリンを探せ」は、【相棒season6】の第13話として2008年1月30日に放送されました。
(画像引用・テレビ朝日、東映)
私は初回放送を見逃して、2015年の12月に、この回を再放送で視聴しました。
2015年12月といえば、アメリカ・カルフォルニア州の障害者支援施設で14人が殺害される、銃乱射事件がありました。当時の報道に衝撃を感じました。
この事件は「イスラム国」に忠誠を誓う20代夫婦のテロ行為と断定されました。ただ、夫婦が警官に射殺されたため、真相は闇の中。
その1か月前、11月にはフランスのパリ近郊での同時多発テロで、100人以上の命が奪われました。
こちらは「イスラム国」に関連するテロ組織から、構成員による計画的な犯行との声明が出されました。
複数の国の首脳が「戦争状態」という言葉で状況を説明し「テロ組織の壊滅」を目的とした空爆などの対抗措置が続き、報復が連鎖します。
戦争などの争いごとを望まない一般人がどこで何人が「殺されている」のかがわからない、混沌とした情勢。
何が正義なのか、何が正義ではないのか。
普通の人間が殺人鬼になるまで
「マリリンを探せ」では、1時間弱の本編で、7人が死亡します。なぜ7人も死ななければならなかったのか。
この回の脚本を担当したのは【相棒】シリーズで「せつない話」を書くことが多い岩下悠子さんです。
↓岩下悠子さんの脚本回はこちらも↓
【相棒せつない回「空中の楼閣」感想】もしベストセラー小説が読者を見下して書かれていたら - せとさんスポーツ
この話を一言でまとめると「普通の人間が殺人鬼へと化していった道のり」です。
その謎を解明するヒントになったのが、元麻薬探知犬のマリリンの行動でした。
ドラマは、亀山くんが、ゲイバーのママのヒロコから、愛犬のマリリンを捜索してほしいと頼まれる場面から始まります。
亀山くんとヒロコは、公園でマリリンを捜しているうちに、福光という男の刺殺死体を発見してしまいます。
福光の遺留品からは携帯電話だけが奪われていました。これまで2件発生していた、携帯電話だけが奪われる殺人事件と同一人物の犯行なのか。
翌日には、稲垣という男が自宅マンションから転落死。
近くからは、連続殺人事件の2番目の被害者の携帯電話が発見され、かかってきた着信に伊丹刑事が出ると男の声で「俺を捜してもムダだ」とだけ話され、切れてしまいました。
なんとも複雑な事件です。
殺さずにはいられない?
福光や稲垣など、連続殺人事件と見られる事件で死んだ4人。
稲垣の友人である沖田の妹・里美は、高校生の時に、麻薬を飲まされたことが原因で事故死。
稲垣のマンションから転落死した女。この女性も麻薬がらみ。
ヤクの売人の諏訪山。
7人が死亡。事件には、麻薬が大きく絡んでいました。
【相棒】では「平成の切り裂きジャック」と呼ばれる浅倉禄郎や「ベラドンナの赤い罠」の小暮ひとみ、「悪魔に魅入られた男」こと村木重雄など、社会を震撼させる殺人鬼が何度も登場しています。
そして【相棒】は、彼らがなぜ殺人鬼になってしまったのか、止めることはできなかったのか、その分かれ目について、視聴者に問いかけています。
たとえば浅倉は、子供の頃に母親が娼婦で、そんな母親のせいで心をさんざん傷つけられて、恨みを抱きました。彼が最初に殺したのは、母親でした。
「マリリンを探せ」では「なぜこの事件の犯人は殺人鬼となってしまったのか?」が、その動機とともに、詳細まで描かれています。
犯人は、ある理由から、麻薬を使って悪どい商売を続けている人間を許せませんでした。
右京さんは、ラストでこんなセリフを残します。
「彼はきっと、この先も殺し続けていたでしょうねえ」と。
右京さんほどの警察官であれば、連続殺人を犯す凶悪犯の心理を実感として把握しています。
浅倉禄郎を逮捕した時に、浅倉に「止めてくれてありがとう」と感謝されたのが右京さんです。
彼らは、最初から異常者というわけではない。どこにでもいる平凡で、気弱な人間であることが多い…
何かの弾みや、止むに止まれぬ動機で人を殺してしまった時には、人並みに罪の意識に苦しむけれど、殺人を繰り返すうちに「慣れてしまう」ことがあるようです。今回の話の犯人も、しだいに慣れていってしまったのかもしれません。
報復や復讐を止めるために
この事件の殺人鬼は、逮捕されません。死んでしまいます。
死人に口なしです。
右京さんと亀山くんが、マリリンの行動からヒントを得て突き止めた「真相」が、本当に真相なのかどうかは、わかりません。
カルフォルニアの乱射事件も、犯人とされる夫婦が死んでしまったことで、本当の真相は、これからもわからないのかもしれません。
一方で、救いを感じるのは「イスラム国」の壊滅です。
2017年12月、イラクの首相が「イスラム国」からの全土解放と戦争終結を宣言しました。シリアとの国境付近で、残党を掃討したと。
「残党を掃討」という表現から現地を想像すると、大変なことになっていそうです。どれだけの血が流れ、命がなくなったことか。
掃討されても「イスラム国」の呼びかけによるものと思われるテロ事件が、各地で発生しています。テロの脅威が消えたわけではありません。
しかし、報復や復讐、殺し合いの連鎖などに対して、右京さんは厳然と立ち向かいます。
右京さんは、人の命はすべて同じ重みであると考えています。道徳を信じています。
「相棒16」の「ドグマ」では、拳銃を持つ真犯人に対して丸腰で説得しました。
↓「ドグマ」はこちら↓
【相棒16第8話「ドグマ」感想】もし日本の悪い人のせいでテロリストとジゴクバチが来日したら。 - せとさんスポーツ
「マリリンを探せ」では、殺人鬼の犯行を止められなかったと悔やむ男性に、右京さんが語りかけました。
「彼はきっとこの先も殺し続けていたでしょうねえ」
の後は、
「あなたという友人がいなければ。少なくとも最後の瞬間、彼は殺人鬼からひとりの人間に戻った。そう信じませんか?」でした。
私たちは、人を信じるところから、何度でもやり直すことができるんだ。
信じれば、マリリンだって見つかるんだ。
「マリリンを探せ」は、だいぶ後味が悪い話ではありますが、未来を見据えた提言は、しっかりと示されていました。
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