この記事ではドラマ【相棒16元日スペシャル「サクラ」】の感想などを記述しています。
久々に元日SPで名作誕生
いやあ、すごい。
面白い。
【相棒】はレギュラー放送が16シーズン目に入って、スタッフ・キャストと同じく、視聴者の平均年齢も、少しずつ上がってきています。
歳をとると、少しずつ、寝る時間と起きる時間が早くなるそうです。
毎週水曜日の夜21時から始まる【相棒】について、「ソファーで横になって見ていたら、内容は面白かったんだけど、途中で眠くなってきて、相棒が終わったらすぐ寝ちゃったよ」という声が聞こえるようになってきました。
1月1日の【相棒】は21時スタートで、23時過ぎまでの長編です。
昨夜は大みそかで夜更かし。正月気分もあって若干眠い。
でもやっぱり【相棒】を見ようかな。
途中で寝ちゃわないかな。
おもしれえ!
気がついたら23時過ぎてた!
そんな「水谷豊世代」の先輩方の心の叫びが聞こえてくるような、あっという間の2時間強でした。
「警察は強いものの味方」っておい
天才ハッカーの少年たちは、見てはいけないデータを見てしまいました。
警察の人間から、家族の身に何かが起きるかもな、と脅迫されてしまいます。
悪い警察官は、言い放ちます。
「警察っていうのはな、強いものの味方なんだよ」と。
時代劇で言うところの悪代官です。
ここまで悪い奴が出てくると、見ている私たちは、悪い奴に脅されて悪いことをさせられている純真な高校生たちに、気持ちよく肩入れすることができます。
3人組の少年の1人は、自分が生まれて間もなく母親が亡くなり、父は借金を抱えて雲隠れして、祖母と2人で暮らしていました。
父の借金は祖母が返済し、団地に引っ越し。少年は小さい頃から学校でいじめられ。
だからこそ、祖母の「でも、やさしい子なんです」に、うるっときます。
しかし、6月24日に、失踪。同じ日に、仲間の2人も行方不明になりました。
家族を危険な目にあわせないために、警察の犬になる道を選ばざるを得なくて。
またも太田愛マジック炸裂
21時にスタートしたドラマは、冒頭に少年による発砲事件が起きました。
しかしこの後、しばらくは、やや抑えめなテンションで進行していきます。
2サスのパターンは、ざっくりわけると2つあって、1つは、最後の最後で真犯人とトリックが暴かれる型のもの。
もう1つは、大がかりなどんでん返しよりも、主人公やその周囲の人物の心情を丁寧に描写しながら、犯人と対峙していくもの。
今回の【相棒16元日スペシャル「サクラ」】は、どちらかというと後者に属するストーリーとなりました。
脚本を担当した太田愛さんは、普段の54分ものでは、大がかりなトリックで視聴者を驚かせてくれる回を多く見させてくれます。
時間がたっぷりあるスペシャル版になると、ほぼすべての登場人物の心の動きを繊細に描く作品をいくつも創作して、感動を与えてくれます。
「相棒史上最高の感動作」とも言われている【相棒10元日スペシャル「ピエロ」】では、誘拐事件に巻き込まれた神戸くんと子供たちの心の交流に涙を誘われ、右京さんが推理を積み上げて救出するという、スリリングな展開でした。
【相棒12元日スペシャル「ボマー」】では、体にダイナマイトを巻かれた少年を、カイトくんが守りながら犯人たちの魔の手をかわし、なんとか右京さんたちが真犯人にたどりつく、疾走感あふれる作品でした。
太田さんは他にも元日スペシャルや「劇場版4」の脚本を担当して、女性目線での《相棒ワールド》をどんどん広げてくれます。
今回の「サクラ」は、「ピエロ」や「ボマー」などで右京さんとその相棒を引き離したのとは逆に、冠城くんとぴったり寄り添いました。
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群像劇から後半のスパートへ
悪い警察官は、自分たちがやりたい放題するためなら、邪魔になる人間の弱みを見つけて、とことん脅しまくります。
「この世に正義や公正さがあると思ってんだったら、目を覚ましたほうがいいぞ」
もう、どこまでも悪い奴です。
こうなると、「こいつらは22時半すぎくらいに右京さんに強烈な一喝を喰らうんだろうなー」と、ワクワクしてきます。
ここです。
21時にスタートしたドラマが、高校生の少年たち、折口内閣官房副長官、右京さんと冠城くん、広報課の社さん…と、場面を切り替えながら、それぞれの心の移ろいが丁寧に描かれていきます。同時に、終盤で回収される伏線の種もまかれます。
ドラマ途中のCM明けで、まず高校生3人の友情が描かれ、次に折口さんと悪い奴の接触、さらに悪い奴と衣笠副総監の電話会談シーンがあり、またCMに入った部分がありました。右京さんも冠城くんも出てきません。
この構成に、今回の話は「特命係の活躍」というより「たくさんの主人公がいる群像劇」としての見方が定まります。
追手から逃げる少年。少年を助けて保護する右京さんたち。しかし3人のうち1人だけは逃げ続けて。
おのれの命を投げ打ってでも、悪い奴に復讐しようと意志を決めて。
自殺した警察官から奪っていた「サクラ」と呼ばれる拳銃を手に、復讐を成し遂げ…
ストーリーが後半に進むにつれて、展開が二転三転して、一気に盛り上がっていきます。
2時間を越すドラマの場合、途中で中だるみがあったり、前半に風呂敷を広げすぎたために後半が尻すぼみになったりする話が少なくありません。
「うわー、最後まで見たらコレかよ」という残念感にまみれるというか。
「サクラ」はその逆で、前半の1時間ほどを抑えめにして、徐々にテンポが速くなり、一気に終盤にたどり着きました。
内片輝監督、絶好調です。
右京さん「ぼくは信じています」
悪い奴に「サクラ」を構えた少年は、右京さんの説得と、冠城くんの機転により、人を殺す罪を背負う寸前でとどまりました。
私の家には録画機械がないため、いつもメモを取りながら視聴しているのですが、終盤は見ていてボロボロ泣いてしまい、メモどころではありませんでした。
右京さんが少年に穏やかに語りかける「正義」の話は、覚えています。
人間が考え出した「正義」という存在のはかなさを提示した上で、
「ぼくは、君に正義と公正さを望み、それを努力する側の人間であってほしいと願っています。
そして君は、そうなれる。
ぼくは信じています」
さきほどの悪い奴の「警察は強いものの味方なんだよ。正義や公正さがあると思ってるんだったら、目を覚ましたほうがいいぞ」と、きっちり対比しています。
3人の高校生は善い大人になるぞ
右京さんは、毎回、キレッキレの推理で事件の真相を暴きます。そこには「人は犯した罪を法で裁かれなければならない」という信念があります。
そんな右京さんに「人間の根源的な愛」を吹き込ませ、語らせるのが太田愛マジックです。
太田さんの「右京さんがこんな人だったらいいなあ」という理想が、水谷豊さんに乗り移っている気配があります。
だからこそ水谷さんは安心して右京さんになりきっているような。
こんなに感動した1月1日は、久しぶりのような気がします。
冒頭では「水谷豊世代」の視聴者層について触れましたが、同時に【相棒】は、常に若年層を歓迎してくれます。
今回の高校生3人にしても、前回の「目撃しない女」に登場した移動販売車でタコライスを売る女性にしても、【相棒】は、夢を持ちコツコツ頑張る若者を応援してくれます。
2時間以上、このドラマを見ていてよかったなあ、楽しかったなあ、泣けたなあ、この純粋な感動を忘れないようにして、さあ、自分も頑張ろう、って思いました。
【次回までの課題】
「自分は正義や公正さを求めて努力する側の人間になれているだろうか。 自分は何をどう、具体的に努力しているのか。自分は何か不正をしていないか。なぜ不正をするのか。」
【相棒16元日スペシャル(第10話)「サクラ」】
2018年1月1日放送
脚本・太田愛、監督・内片輝
出演・水谷豊、反町隆史、健太郎、篠井英介、梶原善、鶴見辰吾ほか
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