2018年2月14日放送のドラマ【相棒16第16話「さっちゃん」】で、どうやら主人公になりそうな「花の里」の2代目女将・月本幸子さん。その初登場は2006年3月1日放送の【相棒4第19話「ついてない女」】でした。もう12年前のことなんですね。
当時の幸子さんと右京さんの出会い。「ついてない女」の感想として、まとめてみます。
城代金融に夫を殺された
月本司法書士は一年前、公文書偽造の容疑で警視庁捜査二課にマークされていました。月本を裏で操っていたのは、あからさまではない暴力団の城代金融。一課と二課が連携して城代金融まで一網打尽にしようとした矢先に、月本が自殺…
一年後。月本の妻・幸子は、自分の愛人である城代金融の向島茂が夫を殺した犯人であることを突き止めます。
【相棒】シリーズにおける、月本幸子の最初のセリフ。拳銃を構えて。
「うちの人殺したの、あんたなんでしょ?」
幸子は向島を撃ち、国外逃亡を試みます。
しかし、成田空港へ向かう途中で車が故障。偶然通りかかった右京さんと亀山くんの世話になり、新宿まで車で送ってもらいます。
幸子は新宿からリムジンバスに乗りました。そのバスに、右京さんが「コートを忘れていますよ」と乗り込んでくる…
「ついてない女」は、どこまでもついてない運命をたどるのか?
「右京さんvs鈴木杏樹」
【相棒】では、キャラが立つゲスト主人公が、続編の形で再登場することが、少なからずあります。
【相棒5第10話「名探偵登場」】で高橋克実さんが演じた名探偵のマーロウ八木が【相棒10第11話「名探偵再登場」】で復活した時は鳥肌ものでした。
最たるは、なんといっても月本幸子。「ついてない女」に登場した後は【相棒6第11話「ついている女」第12話「狙われた女」】の2話連続もので復活します。再登場した時の「鈴木杏樹きたー!」の嬉しさは忘れられません。
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「ついてない女」は、脚本の古沢良太さんが「杏樹さんのために書きました」と語っています。「右京さんと杏樹さんの対決をたっぷり描きたかった」と。
水谷豊vs鈴木杏樹でも、杉下右京vs月本幸子でもなく「右京さんvs杏樹さん」という表現。「ついてない女」製作の時点では、月本幸子は1話完結のゲストで、続編が作られる想定はほぼ無かったのではないでしょうか。
【相棒】は内容の面白さが話題を呼んで「このドラマをまた見たい!」と視聴者の心をつかみ、土曜ワイド劇場からレギュラー番組化しました。「ついてない女」から「ついている女」「狙われた女」への流れは、【相棒】がシリーズ化した勢いと同じように、視聴者も製作者も「月本幸子をまた見たい!」という気持ちでひとつになった作品と捉えられます。
亀山薫と月本幸子
月本幸子の初登場時のキャラクターは、右京さんと対極にあります。自分のことを「ついてない」と思いこみ、ドツボにハマっています。ちょっとおっちょこちょい。
【相棒】シリーズでいえば、亀山薫に似たところがあります。
亀山くんは、自分が失敗をやらかすと大きくへこんでしまい、その弱さをさらに右京さんに突っ込まれてしまうことがたびたびありました。特命係への島流しの時点で「ついてない」とあきらめかけていたのかもしれません。
ただし、亀山くんは落ち込んでもめげない性格です。人情家です。月本幸子について、事件が解決した後で「でも俺、人生の運なんてみんな同じだと思うんですよ。彼女は今までついていなかったぶん、後半の人生はつきまくりだと思います。そうじゃなきゃ、あんまり可哀想っすよ」と同情していました。
亀山くんの気持ちは右京さんの心に届いていたことでしょう。のちに右京さんは幸子を「花の里」の女将に迎えるわけですが、そこには亀山くんによる「お墨付き」が少なからず影響していると思われます。
杉下さんお願いだから邪魔しないで
月本幸子は、リムジンバスに乗り込んできた変な刑事を警戒しまくりです。自分の犯行を暴かれて国外逃亡を阻止されてはしまわないか。
徐々に追い詰められていく過程で、幸子のフラストレーションは頂点に達し、右京さんに怒りをぶつけます。
「杉下さん。お願いだから邪魔しないで。全部捨ててやり直すんです。私、絶対に飛行機に乗ります」。
香港に行けば現地の仲間が新しいパスポートを用意してくれる。それを受け取って、フランスで静かに暮らすんだ、と。
成田空港でバスを降りようとした幸子を、右京さんは静かに諭します。
「自分自身を否定することほど悲しいことはありません。全部捨ててやり直すことなど本当にできるとお思いですか?あなたは月本幸子以外の何者でもないんですよ」と。
さらに続けます。
「たとえどんなに不本意な人生だとしても、逃げ出さずに立ち向かうことでしか本当の幸せは手に入れられません」
同じ古沢良太脚本の【相棒12第18話「待ちぼうけ」】に、似たセリフが出てきます。
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鄙びたローカル線の駅で殺人犯の男と2人きりになり、一緒にオセロをしていた右京さん。
自暴自棄になっている男に対して「開き直るのはやめなさい!」と一喝した後。
「大事なのは、どんなに絶望的な状況に思われても、投げ出さないことです。無様でも、みじめでも、あきらめずにもがき続けることです。そうすれば…奇跡が起きることもあります」。
右京さんの「人は犯した罪を法で裁かれなければならない」信念。それはなぜか。そこには「愛」があふれています。
古沢さんの脚本がすごいのは、犯人が右京さんと出会ってしまった件が「ついているとしか思えない」結末を迎えること。
(画像引用・テレビ朝日、東映)
右京さんの推理によって、向島は息があるうちに発見されました。殺人ではなく、殺人未遂になりました。
この知らせを聞いた時、幸子は、リムジンバスを降りたところで右京さんに諭されたセリフを胸に抱きしめます。
自暴自棄になっていた彼女の瞳に、希望の光が宿りました。
お忍びデートが目撃される
月本幸子は「ついている女」と「狙われた女」で、刑務所からの脱獄事件に巻き込まれます。
その渦中で、こんなセリフが出てきます。
「私もね。前はあなたみたいに、自分の運命を恨んで生きてきたの。でもね、ある人に言われたの。どんなに不本意な人生であっても、逃げ出さずに立ち向かうことでしか本当の幸せを手に入れることはできない。私にはそれができるはずだって。きっと明日はいいことがある。私はそう思って生きることにした。人は生まれ変われると思うわ」。
模範囚・月本幸子は、右京さんに影響されまくりだったのです。
この記事を書いているのは2018年2月11日。次回放送は2月14日の「さっちゃん」。そのあらすじを読むと、幸子さんに恋の予感がほのめかされています。
しかし、幸子さんが右京さん以外の人に傾くとは思えません。
【相棒10第12話「つきすぎている女」】を経て「花の里」の2代目女将さんとなった幸子さん。
ということは、右京さんのご指名、お気に入り。
【相棒12第9話「かもめが死んだ日」】では、2人がデートしているところをカイトくんと悦子さんに目撃されています。
もう結婚しちゃえよ、と思うのですが、そこには大人の事情もあるでしょう。
右京さんはバツイチ、幸子さんは夫を殺されているのですから。というか簡単に結婚されちゃったら【相棒】っぽくないですからね。
「後半の人生はつきまくりだと思います」という亀山くんの願いは、かなっているのではないでしょうか。
つきまくっている女。幸せな子と書いてさちこと読む、さっちゃんの今後の活躍を楽しみにしています!
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