【いいかげんにしてください!
さっきから聞いていればグチグチグチグチ、何をやってもムリだのかわいくないだの、…確かに私はかわいいですよ!
だけど、かわいくなれない女の子なんていないんです。
いいですか?春井さん、かわいくなるために必要なのは、…】
とある1年6組の学級委員長は【相棒】の右京さんばりの信念の強さで、クラスメイトの「心の事件」を解決した!
- 10年以上前の話なのに
- 人それぞれの悩みをていねいに
- 同級生と同じ目線で
- じわりと本音を引き出す
- 特別な魔法なんかない
- 未来の彼氏がやさしくて
- ケータイ文化の危うさ
- 「モテたい」の裏側に
- 共感が広がりアニメ化
道端にマンガが1冊、放置されていました。
その場に捨てられているようだったので、拾ってきました。
しばらく忘れていて、部屋の本の山を整理していたら出てきたので、読んでみました。
【極上!!めちゃモテ委員長1】(にしむらともこ、小学館ちゃおコミックス、2006年)は、道端に捨てられてしまうなんてもったいない、人の心の温かさを教てくれる内容のマンガでした。
10年以上前の話なのに
「1話読み切り」の形で「ちゃおデラックス2005年11月29日号」に掲載されたのが、この物語の最初。
高校1年生の北神未海(きたがみ みみ)が、男の子にモテるために、中学までの「ケンカ番長」を封印して、パーフェクトな学級委員長に「生まれ変わった」話です。
クラスの問題児の男子生徒3人組を体育祭に出場させるように頼まれて、3人組とやりとりするうちにアクシデントに巻き込まれます。そのリーダー格である東條潮(とうじょう うしお)に恋をする、という、ありがちなストーリー。
その後「ちゃお」06年1月号からすぐに連載が始まり、その第1話で、委員長・北神未海の実力が発揮されます。
人それぞれの悩みをていねいに
本人は「かわいくてしっかり者のワンランク上のモテ子」になるため、クラス委員長としてみんなの役に立つことをしようと張り切っています。
連載第1話では東條潮をすでに「私の未来の彼氏」と心の中で断言し、告白待ちをしている状態です。
委員長は、先生に「1週間休んでいる春井香穂の様子を見てきてくれ」と頼まれます。
さっそく春井香穂の家に出かけた委員長。
部屋にこもりきりの香穂は
「誰にも会いたくない!帰って!」
とドアの外の委員長に叫びます。
意に介さずにドアを開けて香穂の部屋に入っていく委員長。
「なんだー、けっこう元気そうじゃないですか!よかったです」
と微笑みます。
この強引な関わり方、ドラマ【相棒】の主人公である警視庁特命係の杉下右京警部にそっくりです。
委員長が話を聴くと、春井香穂はメル友の男の子と初めて会うことになったのですが、光を利用してニキビを隠した顔の写真をメル友に送信してしまいました。「こんなブツブツだらけの顔じゃ、はずかしくて彼に会えないよ」と思ったら、なんだか学校にも行きたくなくなっちゃって、1週間学校を休んでいるようです。
いや、春井さんあなた、ショートカットで充分かわいいと思いますよ…
という私のショートカット大好き偏見は置いておくとして、委員長は
「その彼のこと、好きなんですね」
と春井香穂にやさしく語りかけます。
同級生と同じ目線で
ここで親や教師などのオトナや、人の心の弱さにまだ気がまわらない同級生であれば「そんなことで1週間も学校を休んでいるのかよ。学校行けよ」と思ったり、強く諭したりしてしまうでしょう。
それでは、春井香穂の「心の事件」は解決しません。
顔のブツブツに劣等感を抱いてしまっている同級生と同じ目線で話をすることで、委員長は春井香穂を励まします。
学校に行くことよりもニキビを治して彼に会いに行きましょう、と提案するのです。
じわりと本音を引き出す
確かに、ニキビが治って好きなメル友さんと会えていい感じになったら、学校にもまた楽しく通えるようになる…委員長、冴えてます!
しかし春井香穂は「絶対ムリ!」と委員長の提案を拒絶します。
「委員長みたいにもともとかわいくてつるつるお肌の人には、あたしの気持ちなんかわかるはずないのよ!」
「あたしなんか、かわいくなれるはずないのよっ!」
と【相棒】の後半で右京さんに追いこまれた容疑者のようなセリフを吐き捨てます。
ここで「プチ」とキレた委員長が
「いい加減にしてください!」
と、冒頭で紹介したセリフを話し始め、春井香穂を説得していきます。
「春井さんはメル友さんに会いたいんですか?会いたくないんですか?」と二択の質問でせまり、「会いたい」という答えを引き出します。
特別な魔法なんかない
委員長は春井香穂のニキビを2週間でつるぴかお肌にしてしまうという「春井香穂の心の事件の解決方法」をアドバイスしていきます。
「春井さん自身の力で」現状を変えることが大切であることをしっかり伝えた上で、適度な運動や睡眠、美肌になる飲食物、さらには洗顔の方法まで、ていねいに春井香穂に教えていくのですが。
春井香穂は、委員長のアドバイスを受け入れません。
「洗顔とか睡眠とか、あたしが知りたいのはそんなことじゃないの。あたしが教えてほしいのは今すぐニキビを治す特別な方法なの!」
「たかが洗顔ぐらいで2週間でつるぴか肌になれるはずないじゃない!
バカにしないでよ!」
そこまで言われても「こいつムカつくー」などと思わずに、凛として言い放つ委員長。
「言ったでしょう?春井さん自身の力で変われるって。恋する女の子にはそのパワーがあるんですから!」
未来の彼氏がやさしくて
とは言いつつも、自分が「よけいなおせっかい」をして春井さんと「ケンカ」になってしまったと、やや自信喪失ぎみの委員長に「未来の彼氏」東條潮がかっこよく北神未海を勇気づけてくれます。
「ケンカになったのは、委員長が友達として真剣にぶつかったからだろ?なら、その想いはちゃんと伝わってるさ」
読み切りの時点でお互いの心のやさしさを通じ合わせた2人だからこそ、相手を信じて寄り添ったセリフを臆面もなく話せる…
なんて素敵な相棒なんだ!
ケータイ文化の危うさ
この話は10年以上前に発表されたものですが、扱われているテーマは、今読んでも、色あせていません。
不登校、ケータイの向こう側の異性、ニキビ…人それぞれ、何かしらの不安や悩みを抱えているものです。
現代はLINEやTwitter、その他SNSアプリで知らない人同士が簡単に知り合えてつながれます。
そこには、それを利用して10代の少年少女に犯罪行為を及ぼす者がいます。
今の社会で「メル友さんに会いに行くために、2週間さらに学校を休んでニキビを消そう」という、委員長の解決策は、通用しないかもしれません。
メル友が良い人だとは限らないし、ニキビとメル友を理由に3週間休むことを「良い or ダメ」の二元論で判断してしまうのが現代です。
当事者にとっては、どうにもならないくらいつらいことが、他者には「そんなことで悩んでるのかよ」と、バカにされてしまいがちです。
「モテたい」の裏側に
「そんなことで悩んでるのかよ」で笑って、みんなでウワサ話をして、さらに当事者が学校に行きづらい環境を作ってしまうケースがあります。
当事者が、自分はみんなにダメ人間だと思われているんだろうなとネガティブまっしぐらになってしまい、自分を追いつめてしまうこともあります。
委員長は、当事者と一緒に問題を解決するという選択をしました。
北神未海という少女が「モテるため」にパーフェクトな委員長になろうとしている意識とは別の、根底にある心のやさしさや正義感が、春井香穂の心を動かしたのです。
これを機に委員長と東條潮が恋愛関係に発展するかどうかは、連載のこれからのお楽しみとして、「極上!!めちゃモテ委員長」は1話完結の連続ドラマとしての要素が、しっかりと詰めこまれた、まさに極上のストーリーのマンガでした。
共感が広がりアニメ化
面倒なことは委員長に丸投げする先生、東條潮とつるんでいる成績学年トップなのに学校嫌いな西崎青(にしざき あお)、小柄でかわいく人懐っこいのを武器に女の子の人気を得ているちょっとエッチな南雲波人(なぐも なみと)。
委員長に密かに好意を寄せる男子や、委員長のことが目障りで仕方がない同学年の女子…。
学園ものにありがちな人物ばかりが出てくるのに、委員長があまりにも右京さんぽくて、でも一人で突っ走ることにまだ自信を持てない世代であるからこその、他者との関わりをもとに、強く成長していく主人公…
右京さんが高校1年生の女子だったら、こんな感じだったのではないかと思わせられるような、ブレない委員長のストーリーはやがて人気マンガとなり、のちにアニメ映像化、さらにはゲーム化されたとか。
道端に捨てられていたマンガを拾ったら、大きな人生勉強になりました。
もしかしたら、このマンガは捨てられていたのではないのかも知れません。
390円プラス税のマンガすら買うお金に苦しんでいる【相棒】大好きな私に、どこかの仲間が、わざと私が気がつくように道端に置いてくれたプレゼントだったとしたら…。