ノーマス。もうたくさんだ。やめてしまおう。いや、それでいいのか?
この記事ではドラマ【相棒16第16話「さっちゃん」】の感想などを述べています。
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「花の里」に立つこと6年
人は葛藤にまみれています。過去から背負ってきた人生。今の自分。未来は。
「花の里」を右京さんから任せられて2代目女将さんとなってから6年。月本幸子は、自分の葛藤が少しずつふくらんでいくのを感じていました。
杉下さんと冠城さんは、毎日のようにお店に来てくれる。自分の料理をおいしいとほめてくれる。
それでも、ふと気持ちが切れそうになってしまう時がある。
人生に立ち向かおうと思ってお店に立ち続けてきたけれど、過去を悔いたり、このまま人生が終わってしまうのかなあと。
そんな時、公園である男性と知り合いました。烏丸というその男は「花の里」に、ポテトサラダを食べに来てくれました。烏丸はその夜から毎晩、お店に来てくれるようになりました。
歴代相棒に愛されてきた
「花の里」の初代女将であるたまきさんは、右京さんの女房でした。別れても、右京さんは「花の里」に通い続けました。ある日、元妻はお店を閉めて右京さんの前から消えてしまって。
長年の当たり前となっていた「花の里」通いが突然できなくなってしまったことで、本人が気づかないうちに、右京さんはスランプに陥りました。
そんな時、月本幸子から手紙が届きます。
月本幸子は、右京さんが逮捕した女性。自分のことを「ついてない女」だと思い込んでいた月本幸子に、右京さんは自分の人生を必死に生きることで、人は変わることができると説きました。
「ついてない女」はやがて刑務所からの脱獄事件に巻き込まれ「狙われた女」に。月本幸子と再会した右京さんは、彼女が自分の人生を見つめ直してまじめにコツコツと刑期を務めていることを知りました。
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そのまじめな姿勢に、右京さんだけでなく、亀山薫や周囲の人々も「彼女には幸せになってほしい」と願って。
やがて彼女は「つきすぎている女」になりました。神戸尊いわく「おっちょこちょい」ゆえに失敗してしまった月本幸子を、右京さんは放っておけませんでした。
月本幸子は「花の里」の2代目女将さんとなりました。
「さっちゃん」の冒頭で、右京さんは視聴者に打ち明けます。
「この人はどう生きていくのだろう。誰にでも気にかけている人がいるのではないだろうか。僕にとっては、…」
右京さんとのはがゆい関係
右京さんは月本幸子のことをどう思っているのだろうか。月本幸子は右京さんのことをどう思っているのだろうか。
2人とも、何かを言いたそうで、何も言わないようにしているような、もどかしさを感じます。
両想いだけど言い出せないような。少女マンガに出てくる中学生みたいな2人です。
冠城くんが女将さんにちょっかいを出せば右京さんはムスッとなって様子を伺うムッツリです。冠城くんの「半分冗談」ぐらいならぐらつかないけれど。
烏丸の出現に色めき立つ冠城くんの向こうで、右京さんはいつもの興味津々とは違う感情を抱いたのではないでしょうか。
ポテトサラダが忘れられなくて
烏丸は過去にボクシングで日本2位の経験があります。日本タイトル挑戦直前で試合をキャンセルしてしまいました。
ノーマス。もうたくさんだ。
やがて彼は自分の人生をコツコツやり直すことを決めました。
肉体労働で毎日汗を流していた烏丸は、偶然出会った月本幸子に好意を抱きました。彼は恋をしました。
ポテトサラダが美味しくて。あなたがまごころを込めて作ったポテトサラダを、また食べたくて。
烏丸は幸子をデートに誘いました。お店の休日に、幸子は会いにきてくれました。その帰り道。悪い奴らが2人でホームレスを蹴り倒していました。
父親から受けた虐待の後遺症。スイッチが入った烏丸は、人を守るために、人を殴り倒しました。
大学生の借金事情
渡辺真子は大学生です。不況によって、親の経済状況が悪化しました。勉強や就職活動に時間を割かれて、お金を稼ぐ時間がありません。彼女は街金に手を出します。
その金融会社は合法で運営されていましたが、女子大学生ばかりに融資し、返済できなくなった者をアダルト動画に出演させていました。
真子も毒牙にかかり、ビデオカメラで撮影が始まったその時に、烏丸という男が助けに来て、自分に「逃げろ」と叫びます。
助けてくれた。でも、お金を返せない自分には烏丸の行為は迷惑だ。でもやっぱり、助けてくれてありがとう。
しかし結局、日を改めてアダルト動画を撮影されることになりました。
今度は拳銃を発砲しながら近づいてくる女性や2人組の刑事たちに助けられました。怖かった。でも、これからどうなるのだろう。
葛藤に負けてしまいそうな時
強く生きようとしても、葛藤にまみれてもがき苦しんでしまう。弱さに耐えられなくなる。
人のもろさが伝わってくる作品が「さっちゃん」でした。
自分の過去と向き合うのはつらい作業です。目をそらしたくなることがたくさんあります。忘れてしまいたい記憶ほど鮮明に覚えていたりします。
今を生きているのに、過去にとらわれて、コツコツと生きてきた自分をやめてしまいたくなる瞬間が訪れます。
月本幸子にとっての「杉下さん」。
彼女は自分の人生を変えてくれた杉下さんに感謝して、あるいは感謝以上の心を抱いて「花の里」に立ち続けてきました。
その笑顔はキラキラ輝いています。
ドラマでは、右京さんや主要キャラクターが「花の里」に訪れた時の幸子さんだけが描かれています。
右京さんが店にいない時に、彼女はどんな気持ちでカウンターに立っているのか。
初登場から12年。彼女が「花の里」を任されてから6年が経過して、我々は再び月本幸子の孤独と向き合う時間を与えられました。
孤独は何度も胸に去来します。右京さんの言葉をどんなに大切に心に留めていても「ついてない女」としての自分が頭をもたげ、過去の自分に戻ってしまう。笑顔の奥の孤独。
そんな時に、偶然出会った男性に「あなたが作ったポテトサラダはとてもおいしい」なんて言われたら、ふらっとよろめいてしまうもの。
いつも右京さんとその相棒が、自分の料理を美味しそうに食べてくれているのに。
右京さん、ポテトサラダにこだわる
キレてしまいそうになった時が、分かれ道。やめてしまおうか。やめるのは簡単。でもやめたくない。じゃあどうしたらいいの?
月本幸子は、烏丸のセリフに助けられました。
ノーマスと叫んでリングから去ったボクサーは、その後復活して4階級制覇を成し遂げた。
店に立ち続けることには、必ず意味がある。
彼女はきっと、未来に向けて背中を押されたことでしょう。
月本幸子は、どこまでも「ついている女」なのです。
彼女の未来には「杉下さん」がずっとそばにいます。今回はちょっと気持ちが揺らめいただけだよね。ね?
右京さんはモノローグで「月本幸子はなぜこの夜、ポテトサラダを作ったのか」と静かに語りました。
あれは純粋な興味ではない。右京さんの葛藤。またはヤキモチ?
いつか月本幸子が「杉下さん」ではなく「右京さん」と呼ぶ日が来ることを願って、涙と一緒に迎えた21時54分でした。
さあ、もう一度、過去の自分と向き合ってみようか。葛藤まみれの自分と。いつか、キレてしまいそうになった時のために。
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