20周年を迎えたテレビドラマ【相棒】は、2020年秋から最新シーズンの【相棒19】が放送されています。
主人公は、水谷豊さん演じる杉下右京警部と、その相棒。警視庁の特命係に所属する2人が難事件を解決に導きます。
【相棒】には何人もの脚本家さんが参加しています。当サイトのイチオシは金井寛さんです。
金井さんは【相棒19】でも2020年12月2日放送の「一夜の夢」の脚本を担当しています。
この記事では、過去に放送された作品を紹介しながら、金井さんが紡ぐストーリーの魅力を検証していきます。
(画像引用=テレビ朝日)
- 金井寛(かないひろし)さんとは?
- 刑事ドラマのお約束…からのどんでん返し?
- 金井寛さんが描く「葛藤」の世界
- 自分勝手な正義感に酔うヤバい奴がスゴい
- 右京さんが相棒やその上司と険悪になる
- 100%の女が葛藤を克服した過程に学ぶ
- 金井寛さんの【相棒】作品リスト
金井寛(かないひろし)さんとは?
金井寛(かない・ひろし)さんは1963年生まれ。会社員を経て脚本家・構成作家になりました。【相棒】のほかにドラマ【ママはニューハーフ】、テレビ番組【奇跡体験!アンビリバボー】などを手がけています。
2011年には演劇ユニット「かーんず企画」を旗揚げして、すべての作品で脚本を担当しています。
【相棒】には2012年12月5日放送の【相棒11第8話「棋風」】から脚本家として参加しました。
【相棒12第2話「殺人の定理」】や【相棒16第4話「ケンちゃん」】などで数学の話を用いていることから理系の匂いもしますが、金井さんは自身のブログで「僕は完全な文系人間」と述べています。
登場人物の葛藤をあぶり出す重厚な作品からコメディー調の作品まで、バラエティーに富んだラインナップで、甲斐享期と冠城亘期のメイン級ライターの一人となっています。
刑事ドラマのお約束…からのどんでん返し?
よく作りこまれた刑事ドラマの型のひとつに「番組開始から30分ほどで捕まる人物は真犯人じゃない」というお約束があります。
21時スタートの【相棒】でいえば21時30分ごろです。「犯人はAだろうと思わせておいて、じつは違うらしい…」という展開です。
金井寛さんの作品は中盤から後半にかけて「ここからどんなストーリーになるんだろう。真犯人は誰なんだろう?」と視聴者の興味をぐいぐい引っ張ってくれます。
(画像引用=テレビ朝日)
刑事ドラマのお約束どおりに犯人が逮捕されて番組終了か…と思いきや、番組終了直前にさらなるどんでん返しを持ってくる機会が多いのが金井さんのシナリオの特徴です。
金井作品は、事件解決後の登場人物の心の移ろいが丁寧に描かれるため、濃厚な作品として「相棒すげぇ!」という感想を味わわせてくれます。
金井寛さんが描く「葛藤」の世界
金井寛さんが描くストーリーは登場人物の内面描写が秀逸です。
【相棒12第2話「殺人の定理」】や【相棒16第4話「ケンちゃん」】などで数学の話を用いていることから理系の匂いもしますが、金井さんは自身のブログで「僕は完全な文系人間」と述べています。
確かにどちらの話も数学の難解な問題が出てきますが、殺人事件をめぐる真相は人間関係のほころびです。
「殺人の定理」では、数学の歴史で誰も解けなかった素数の問題を解いてしまった人物に絡む嫉妬や憎しみ、あるいは憧れが殺人事件に発展してしまいました。
「ケンちゃん」では、純粋無垢で誰にでも好かれるタイプのケンちゃんが殺されてしまいます。誰にでも好かれるタイプの人物でも、ある人から見ればケンちゃんの存在によって葛藤を抱えたり、それが憎悪に変わってしまう人もいるという話でした。
金井さんの作品は、人が他人と接する際に起きる葛藤や摩擦と、状況の変化によって生じる心の移ろいを丁寧にあぶり出します。
【相棒12第17話「ヒーロー」】では、ある女性弁護士に恨みを持ち殺してやろうとまで思っている青年が、葛藤の末にその女性を救う行動に出ます。
【相棒12第5話「エントリーシート」】では、エリート路線をめざして就職活動に励む女子大学生の葛藤が哀しい殺人事件に結びついてしまいます。
自分勝手な正義感に酔うヤバい奴がスゴい
金井寛さんの作品の中には、間違った正義感を建前にして犯罪に手を染める人物がよく出てきます。
人に尊敬されるような役職につく人物が常軌を逸した行動をとり、右京さんたちに追い詰められると開き直るのです。
金井さんは、右京さんに激おこセリフを言わせる天才だったりもします。
【相棒13第3話「許されざる者」】では、女性弁護士が「この世の中には私を必要としている、弱者と呼ばれる人たちがたくさんいるの。彼らを1人でも多く救うことが私の理想なの」と語り「つまらない男に邪魔されたくなかったから」殺人を起こしたと正義を主張します。
右京さん「あなた、モンスターですか。どんな理由があろうとも、人を殺していい正義などこの世に存在しませんよ!」
【相棒14第3話「死に神」】には、自殺志願者をネットで探して楽に死ねる方法を教えてあげる行為を続け「人助けです。何がいけないんでしょう?」と開き直る人物が登場します。
右京さん「確かに死にたいほど苦しんでいる人はいるでしょう。しかし、だからといって、人が人の命に勝手に見切りをつけていいはずがない。思い上がるんじゃありませんよ! 苦しんでいる人たちに生きる道ではなく死を選ばせているあなたは、まさに死に神ですよ!」
【相棒12第12話「崖っぷちの女」】では、音楽講師が自分の生徒を世界的に有名なピアニストにするために壮大な現金強奪計画を立てます。
右京さん「たとえそうやって彼女がピアニストとして成功したとしても、いつか自分に使われた金が薄汚れた金だと知ったら、彼女はどうなってしまうのでしょう? 音楽を心から愛する彼女は、もう人として生きていけなくなってしまうかもしれませんよ。あなたはそのことを考えましたか?」
金井さんの作品では、右京さんを心底から怒らせる犯人が登場し、視聴者が「こんな常軌を逸した犯人みたいな奴にはならないようにしよう」と心に誓える仕組みができています。
右京さんが相棒やその上司と険悪になる
金井寛さんは、右京さんのブレない正義のセリフを犯人だけでなく、自分の相棒や関係者にぶつけさせることもあります。
右京さんの発言や行動に、甲斐享や冠城亘が反発を感じたり、さらには亨と亘がそれぞれの元上司との関係を悪化させてしまうことがあるのです。
【相棒13第5話「最期の告白」】では、享がかつて所属していた中根署の堀江係長が真実を隠蔽していた問題で、享が苦しみます。
カイト「真実を明らかにしても何も変わらないし、誰も幸せにならない。でも、不幸になる人がいるんです」
右京さん「どんな事情があれ、我々警察官は真実から目を背けてはならない。僕はそう思いますよ」
結果、堀江はトカゲのしっぽ切りとして辞職し、故郷に帰ると寂しそうに享に語っていました。
(画像引用=テレビ朝日)
【相棒15第8話「100%の女」】では、右京さんが倉田映子検事に辞表を書く決意をするまで追い詰めたことに亘が「待ってください。そこまでする必要ないでしょう」と気色ばむシーンがありました。
その後、法務省の日下部事務次官の部屋を右京さんと亘が訪れます。
日下部「これから先、彼女がやろうとしていた大きな正義を失うことのほうが、大きな損失だとは思わないのか?」
右京さん「お言葉ですが、法を破って正義を全うできるとは思えません。よろしいでしょうか?(立ち上がる)」
日下部「私は君を許さないよ」
この後、右京さんについていくと決めた亘と事務次官の関係も険悪になっていきます。
金井さんの作品では多様なテーマが取り上げられますが、そこには必ず右京さんのブレない正義が存在し、妥協がないことを認識させられます。
100%の女が葛藤を克服した過程に学ぶ
金井寛さんの作品には、鶴田真由さんが演じる倉田映子が二度登場しています。
たった1つの秘密におびえていた倉田映子
【相棒15第8話「100%の女」】で、倉田映子検事は、証人に嘘の目撃場所証言をさせた責任をとって、検事を辞職しました。
映子が嘘をついた理由は、12年前に自分が有罪にした男に襲われてから心理カウンセリングルームに通うようになり、そのルームが入っているビルが、今回の事件に関係していたからです。
カウンセリングのことが検察庁内で知られたら、映子が失脚させられる格好の材料になります。だから証言を修正してルームから遠ざけたのです。
ルームから出てくる映子が発見される確率が限りなくゼロに近くても、100%でない限り安心できませんでした。
バレたくない秘密を抱える人は、秘密が100%バレないという保証がない限り、安心できないものです。
現代はネットの普及もあり「特定」や「暴露」などが以前よりはされやすくなっています。
映子の場合は右京さんと亘の捜査によって失脚させられる形になったとも言えますが…結果的には、それが吉となるようで…
葛藤に苦しまない居場所を見つける勇気
そんな映子が【相棒17第15話「99%の女」】で再登場します。映子は弁護士に転身し、自らが検事として有罪判決に持ち込んだ人物を、今度は無罪にするべく奮闘します。
その表情には吹っ切れたものが窺えました。被告人の無罪を勝ち取るために特命係を利用するしたたかさも見せました。
映子の内面から、男に襲われた時のトラウマが消えることは無いかもしれません。しかし、今なら誰かにカウンセリングの件を突き止められても、何の弱みにもなりません。
検事を辞めて弁護士になったことで、ビクビクした日常から解放されました。100%から99%になったことで、肩の力が抜けたようです。
映子は金井寛作品の特徴である「葛藤」を克服したように見えます。
金井作品には珍しい、ゲスト登場人物の再登場は、登場人物が葛藤から抜け出す方法のヒントのひとつを提示してくれたのかもしれません。
陣川警部補が登場するコメディーも担当
金井寛さんの作品は、刑事ドラマのお約束的な展開の中に、登場人物の葛藤や正義の価値観などが散りばめられて、濃厚なドラマに仕上がっています。
ただし、硬派なものばかりではなく【相棒】シリーズの人気キャラクターである陣川公平警部補が大活躍するコメディー路線の【相棒13第17話「妹よ」】などの作品もあります。
【相棒17】では最終話の2時間スペシャル「新世界より」の脚本を担当し、これからますます金井寛作品が【相棒】でたくさんみられるのかと楽しみにしていたら【相棒18】ではまさかの作品なし。
しかし【相棒19】で帰ってきてくれました。
【相棒】といえば『裏切りこそ【相棒】の醍醐味』なんて言われることも多々ありますが、金井マジックは良い意味で視聴者を裏切りません!
こらからも金井寛作品を楽しみにしています。
金井寛さんの【相棒】作品リスト
【相棒11第8話「棋風」】
【相棒11第15話「同窓会」】
【相棒12第2話「殺人の定理」】
【相棒12第5話「エントリーシート」】
【相棒12第12話「崖っぷちの女」】
【相棒12第17話「ヒーロー」】
【相棒13第3話「許されざる者」】
【相棒13第5話「最期の告白」】
【相棒13第6話「ママ友」】
【相棒13第17話「妹よ」】
【相棒14第3話「死に神」】
【相棒14第9話「秘密の家」】
【相棒14第13話「伊丹刑事の失職」】
【相棒15第8話「100%の女」】
【相棒16第4話「ケンちゃん」】
【相棒16第17話「騙し討ち」】
【相棒17第8話「微笑みの研究」】
【相棒17第15話「99%の女」】
【相棒17第20話=最終回スペシャル「新世界より」】
【相棒19第8話「一夜の夢」】
【相棒劇場版4】の15秒スポットCM
《関連記事》金井寛作品のおすすめ5選をまとめました。