放送開始20周年を迎えたドラマ【相棒】は、2020年の秋から新シーズン【相棒19】が放送されています。
水谷豊さん扮する杉下右京と反町隆史さんが演じる冠城亘(かぶらぎわたる)が、警視庁のたった2人の特命係として事件を解決に導きます。
この記事では2020年12月2日に放送された【相棒19第8話「一夜の夢」】のネタバレを含めた感想などを記述しています。
(画像引用=テレビ朝日)
第8話「一夜の夢」はどんな話?
【相棒19第8話「一夜の夢」】
2020年12月2日放送
どんな話?
右京(水谷豊)と亘(反町隆史)は、レストランの前で揉めている男女を見掛け、間に入る。しかし、2人は大丈夫だと言って足早に立ち去ってしまった。
翌日、亘はネット記事で、昨晩の女性が与党幹事長の娘・小早川奈穂美(上野なつひ)と気付くが、その矢先、彼女の婚約者である資産家男性が他殺体で発見される。
捜査に乗り出した右京と亘は、奈穂美に事情を聞き、揉めていた男の素性を尋ねる。すると、落とした携帯電話を届けてくれた礼に、食事をしただけだという。
問題の男は、宇野(柏原収史)というキャバクラの客引きで、奈穂美に一方的に結婚を迫っているらしい。右京と亘は、宇野に疑惑の目を向けるが、確固たるアリバイがあることが判明。
それでも、拾った携帯電話から奈穂美の弱みを握り、結婚しろと脅しているのではないかという疑いは消せず、捜査を続けるが…!?(引用=テレビ朝日)
主な出演者・スタッフ
出演者
杉下右京=水谷豊
冠城亘=反町隆史
小出茉梨=森口瑤子
伊丹憲一=川原和久
芹沢慶二=山中崇史
角田六郎=山西惇
青木年男=浅利陽介
出雲麗音=篠原ゆき子
益子桑栄=田中隆三
中園照生=小野了
☆
宇野健介=柏原収史
小早川奈穂美=上野なつひ
花牟礼静香=田川可奈美
小早川泰造=大河内浩
ほか
スタッフ
エグゼクティブプロデューサー=桑田潔
チーフプロデューサー=佐藤涼一
プロデューサー=髙野渉、西平敦郎、土田真通
脚本=金井寛
音楽=池頼広
監督=杉山泰一
ほか
(画像引用=テレビ朝日)
その後どうなった?(ネタバレ注意)
殺害された星宮光一は星宮家具という会社の社長で、小早川奈穂美はその婚約者だった。奈穂美の父は与党幹事長の小早川泰造。
宇野健介には鉄壁のアリバイが
星宮の遺体は河川敷で発見され、犯行時間は昨夜の午後10時から11時。父の星宮誠一が光一は40名以上のリストラを敢行したと話したため、逆恨みされているかもしれないと裏付け捜査をおこなうも、全員にアリバイがあった。
宇野健介は昨夜は知り合いのバーにいたことを店の中島、岡本、花牟礼が証言する。
宇野は奈穂美に結婚を迫り「君に拒否権なんてものは無いから」と脅す。
右京さんは河川敷にホームレスが住んでいた跡を見つけ、事件当日の夕刊とドアノブのようなものを発見する。
奈穂美が宇野との結婚を発表
奈穂美は光一不在の婚約披露パーティーを決行し、その場で宇野との結婚を発表して、参加者は動揺する。
会場で奈穂美が目つきの悪い男と話す姿が目撃し、角田課長によるとオンラインカジノに関わり銀龍会に出資している田淵洋治いう男らしい。
中園参事官が特命係に来て、捜査を妨害せず「勝手にしろ」と言う。どうやら小早川幹事長は婚約者の身の潔白を証明してほしいらしい。
夜、宇野がアパートに帰ると室内が荒らされており、ボコボコに殴られた。
事件を解くカギは「28年前」にあった
右京さんが見つけたドアノブのようなものは、ホームレスが持つ鍋のフタの持つところだった。
ホームレスは事件当夜「28年ぶりだな」という声を聞いたという。
28年前、星宮光一は養子に入っていた。旧姓は井口。星宮も宇野も墨田区出身。
宇野が目をつけていたのは奈穂美ではなく、星宮のほうだった!
星宮の実母の井口啓子が右京さんたちに見せたアルバムには、宇野と井口が一緒に写っている写真があった。そしてもう1人、バーの店員の花牟礼静香…。
花牟礼は宇野に頼まれてアリバイ工作をしていたのだ。宇野は裏口から店を出て、アプリ決済は宇野からスマホを預かった花牟礼がしていた。
なぜ宇野は金銭ではなく結婚を要求したのか?
宇野と奈穂美の結婚式当日。屋上にたたずむ宇野を見つけた右京さんは「犯人はあなたです」と宣告する。
証拠は裏カジノに興じる奈穂美が写っているメモリーカード。宇野が花牟礼に預けていたものだ。
角田課長らは奈穂美に裏カジノの写真を見せて連行する。
ここで残る謎は、なぜ宇野は金銭ではなく結婚を要求し、光一を殺害したのか。
その真相は28年前。養子に行くはずだったのは宇野だった。しかし星宮光一と花牟礼静香は「3人で一緒にいたい」と言い、宇野は養子の話を断った。
その1か月後、星宮が嘘をついて星宮家の養子になった。宇野は「あいつが俺の人生を奪った」と話す。
28年の時を経て、星宮と奈穂美の婚約記事を見た宇野は星宮に会いに星宮家具に行ったが、無視された。
右京さんの激おこに宇野がとった行動とは?
宇野は奈緒美が落としたスマホから弱みを握ったことで「人生を逆転できる」と思い、星宮を刺し殺した。「悪いけど、俺の人生、返してもらう」
宇野の独白を聞いて、右京さんは「あなたは大きな思い違いをしています」と反論した。「どんなに苦しくみじめでも、あなたの人生は他人のものとはすり替えられない。殺人など、あまりにも愚かすぎます」と。
亘は宇野の更生に期待するが…
毎度のごとく伊丹刑事たちが宇野の身柄を引き取って連れていこうとするが、宇野が振り払って屋上から身を乗り出す。
「みなさんはどうぞ、この先も楽しい人生を!」
そう言って宇野は屋上から飛び降りてしまった。
感想など
たったひとつの嘘から天国と地獄に分けられた2人の人生。地獄を味わった者は天国にいる人物との人生の逆転を狙いましたが、その方法を間違えてしまいました。
養子縁組を断った男の泥のような28年
宇野健介の生い立ちを振り返ってみます。
宇野は1982年5月18日生まれ。小学校では井口光一、花牟礼静香と3人でいつも一緒にいました。
星宮家具の星宮誠一が企業規模を拡大するにあたって養子を募っており、星宮家の家政婦と宇野の母親が知り合いだったことから、宇野が養子の候補に挙がりました。
しかし、そのことを光一と静かに告げると、2人とも「離れたくない」「3人で一緒にいたい」と言ってくれました。宇野は養子に行かないことを決めました。
1か月後、光一が親の仕事の都合という理由で2人の前から去りました。
墨田区の高校を卒業した宇野は、工務店に就職しますが倒産してしまいます。その後、日雇いの肉体労働などの職を点々とした挙げ句、体を壊して働けなくなりました。
宇野は金のために閉店後の飲食店に侵入し、売上金を盗んで窃盗罪で逮捕されます。執行猶予となり実刑は免れたものの、その後も違法な客引きなどをして生活していました。
そして、運命の「28年後」を迎えます。
親友は嘘をつき自分だけ天国へ
違法な客引きをしていて路地裏で男にボコボコに殴られた宇野は、たまたま目にした新聞記事で、光一が与党幹事長の娘と婚約したことを知ります。
光一が28年前に親の都合で引っ越したというのは嘘で、光一は星宮家の養子に入っていました。
光一がついたたったひとつの嘘が、光一を天国に導き、宇野を地獄へ案内してしまいました。
それが、宇野には許せなかったんですね。まあ、宇野じゃなくても親友に裏切られた気持ちになって悲しくなるでしょう。
「あいつが俺の人生を奪った」と恨めしく思う宇野ですが、この時点ではまだ理性は残っていました。光一を問い詰めてみないことには、真実はわかりません。
しかし、星宮家具を訪れた宇野を、光一はスルーしました。これで、キレちゃったよね。
犯罪によって遂行される復讐は許されない
宇野健介は星宮光一に復讐を誓ってしまいました。
「人生を逆転してやる」
その発想は悪くないはずです。嘘をついたのは光一のほうなのですから。犯罪ではないやり方で、その嘘を光一自身に後悔させるという復讐の仕方もあったでしょう。
しかし、宇野が選んだ復讐の方法は犯罪でした。小早川奈穂美のスマホを入れた宇野は、躊躇なく光一を殺しました。
その真相を右京さんに暴かれた宇野は「俺の人生がどんなもんだったか、あんたらにわかるはずがない。何をしてもうまくいかない。ドブネズミみたいな人生だった」と語ります。
そのつらさはしっかり伝わってきます。誰にも頼れず1人で生きてきた宇野にとって、自分が奈穂美と結婚しても、その生活に破綻がくることはわかりきっていたでしょう。相手は与党幹事長の娘です。自分は前科者の違法な客引きです。
それよりも、真の目的は星宮光一の殺害でした。
でもそれは、やっぱりやり直し方を間違えています。その結果が、ラストシーンにつながります。
もう人生をやり直す気力も残っていなかった
右京さんは、犯行を自供した宇野を「あなたのこれまでの人生は、たとえそれがどんなに苦しく、みじめなものであったとしても、あなた自身が選びとった紛れもないあなたの人生ですよ。それを他人のものとすり替えるなどできるわけないじゃありませんか」と説得しました。
たとえ光一に人生をすり替えられたとしても、それを犯罪によってすり替え返すことは許されません。
宇野がたどってきた人生を視聴者である自分が歩んだらと想像すると恐怖が募ります。それでも、それが自分の人生であり、受け入れて、より良い人生を求めて生きていくことが必要とされます。
いやいやいや、多くの人はそこまで強くないよ。ギリッギリのところで生きているんだよね。
そのギリッギリを超えてしまうと犯罪に走ったり、あるいは今回のラストシーンのように、自分から命を奪う行為に出てしまったりしてしまいます。
「皆さんはどうぞ、この先も楽しい人生を!」
そう叫んで屋上から落ちていった宇野の表情は、妙に晴れやかでした。
自分の人生を奪った奴に復讐して、人生を逆転するならば、光一を殺害した罪を償って、もう一度やり直すことが最善の選択だったはずです。
右京さんのアドバイスが身にしみなかったのは事実でしょう。もう、どうでもよくなっちゃったのかな。
自分で自分を追い詰めちゃったのかな。
スマホを落としただけなのに…では済まない
ところで、このエピソードは、小早川奈穂美がバッグを落としてスマートフォンを奪われたところから始まっています。
与党幹事長の娘である奈穂美のスマホに裏カジノで遊んでいる画像が残されていたのですから、公になったら大問題です。
奈穂美が父親に相談した末に、奈穂美と宇野が結婚することまで受け入れて隠そうとした秘密です。結局バレて角田課長たちに逮捕されてしまうのですが。
もうね、手持ちのスマホには、人に見られたらまずい画像やデータを残しておかないようにしましょう。浮気の証拠とか。
いつどこで他人の手に渡り秘密が知られてしまうかもわからないのですから。
おっと、今「そうしとこ」と思ったあなた。何か人に見られたらまずいデータでもスマホに入っているのですか?
ほら、見せてみなさい! 笑笑
人生は一夜の夢ともいうけれど
今回の「一夜の夢」の脚本は当サイトのイチオシ脚本家の金井寛さんの担当でした。金井さんは人々の「葛藤」の描写が絶妙なのですが、今回はストレートな復讐の物語になりました。
タイトルの「一夜の夢」にはどんな意味が込められていたのでしょうか。宇野健介のことなのかな。彼が見た夢って何だったんだろう。人生は一夜の夢っていうけれど、宇野の38年間が一夜の夢だったら、やっぱり哀しいですね。
そして。もし、宇野を救うことができるとしたら、花牟礼静香がアリバイ工作などに協力しないで、まずはじっくり話をするところから、だったんじゃないかな。
声に出して読みたい右京さんのセリフ
犯行を自供しつつ自分を正当化する男に
「あなたは、大きな思い違いをしています。あなたのこれまでの人生は、たとえそれがどんなに苦しく、みじめなものであったとしても、あなた自身が選びとった、紛れもないあなたの人生ですよ。それを他人のものとすり替えるなどできるわけないじゃありませんか。ましてや、そのために殺人を犯すなどあまりにも…愚かすぎますよ」