放送開始20周年を迎えたドラマ【相棒】は、2020年の秋から新シーズン【相棒19】が放送されています。
水谷豊さん扮する杉下右京と反町隆史さんが演じる冠城亘(かぶらぎわたる)が、警視庁のたった2人の特命係として事件を解決に導きます。
この記事では2021年1月13日に放送された【相棒19第12話「欺し合い」】のネタバレを含めた感想などを記述しています。
(画像引用=テレビ朝日)
第12話「欺し合い」はどんな話?
【相棒19第12話「欺し合い」】
2021年1月13日放送
どんな話?
組織犯罪対策五課課長の角田六郎(山西惇)が給付金詐欺に遭ってしまう。
事情を聞いた「特命係」の杉下右京(水谷豊)は、“息子”と偽り、角田に電話をかけてきた『全日本給付金センター』に連絡。「自分も給付金が欲しい」と相談し、直接会って手数料と払う約束を取り付ける。
受け子をアジトまで尾行し、組織ごと検挙するという作戦のもと、冠城亘(反町隆史)が“角田の息子”に扮し、待ち合わせ場所へ。受け子と思われる鈴木(マギー)と会った亘は、とっさに「あなたのところで働かせてほしい」と頼み込み、詐欺グループのアジトについていくことに成功する。
しかし、アジトへの潜入に成功した亘だったが、目隠しで連れ回されたため、アジトの正確な場所までは特定できない。どうにか状況説明を受けた右京は、アジトを割り出そうとするが…。
さらに“伝説の詐欺師”と言われる“Z”の存在についても知らされた右京は、これまでに“詐欺師Z”が関与したと思われる詐欺事件がいくつもあり、被害総額は億を超えていることを突き止める。
亘が潜入した詐欺グループの背後にも“Z”の存在があるのなら、一気に逮捕までもっていけると考えた右京は、角田、そして捜査一課の伊丹憲一(川原和久)、芹沢慶二(山中崇史)、出雲麗音(篠原ゆき子)までも動員し、詐欺グループに揺さぶりをかけようと…?(引用=テレビ朝日)
主な出演者とスタッフ
出演者
杉下右京=水谷豊
冠城亘=反町隆史
伊丹憲一=川原和久
芹沢慶二=山中崇史
角田六郎=山西惇
青木年男=浅利陽介
出雲麗音=篠原ゆき子
☆
鈴木=マギー
佐藤=山崎光
ほか
スタッフ
エグゼクティブプロデューサー=桑田潔
チーフプロデューサー=佐藤涼一
プロデューサー=髙野渉、西平敦郎、土田真通
脚本=徳永富彦
音楽=池頼広
監督=橋本一
ほか
(画像引用=テレビ朝日)
その後どうなった?
伝説の詐欺師Zは伝説の詐欺師Xに勝利して新たな伝説を築いたというのだが、Zとは誰なのか?
伝説の詐欺師Zは白髪の老人?
右京は青木に捜査の協力を要請するが、青木は中岡という人物の息子が誘拐された事件に駆り出されていてそれどころではない。息子の割れたメガネが送られてきたことから、誘拐は本当らしい。
亘はアジトを仕切る男にスマホを没収はれる。亘と鈴木は一緒に食事を作る係になる。鈴木はスマホを2台持ちしていて、没収されなかったスマホで競輪に没頭していた。その日の競輪は本命決着ばかりで話にならないらしい。
アジトを仕切る男より上のリーダー格の男が現れ、仕切る男が金をネコババしようとしているのを見抜いてボコボコにする。
亘はリーダーのライターの特徴を鈴木のスマホで右京に伝え、リーダーは元仁頼組の財満金次だと判明する。
Zの行方を探す右京は、かつてZに騙された人間から、Zが足が悪くて杖をついて足を引きずった足跡があったなどの情報を仕入れる。また、Zは白髪の老人らしい。
右京と捜査一課トリオが協力してアジトへ突入
右京は角田だけでなく捜査一課の伊丹、芹沢、麗音を巻き込んで、給付金を受け取りたい会社のメンバーを装って全日本給付金センターのリーダーとスマホで話し、情報を引き出そうとする。
佐藤らが他の客からの電話応対をする中、右京たちのコンタクトに対してリーダーはさらに上の人物とSNSでやりとりをして指示を仰ぐが、上の人物からの連絡が途絶える。
やがて給付の約束を取り付けた右京は、区役所で職員に成りすました鈴木に会って、前払いの金を渡す。その鈴木を尾行してアジトを突き止めた右京や伊丹らがアジトに踏み込み、詐欺グループを一網打尽にした。
伝説の詐欺師Zの正体は…
さて、伝説の詐欺師Zは誰なのか。右京と亘はZを見たという佐藤少年を呼び出し、Zがどのように杖をついていたのかを実演してほしいと頼む。
佐藤の杖のつき方が不自然だったこと、アジトの窓は高く低身長の佐藤には窓からZを見ることは不可能だったことなどから、右京は老人とは正反対の佐藤少年こそ老人のフリをしたZであることを見破っていた。
佐藤は、ネットの世界では大人と子供は関係ないけど、リアルでは大人と子供は関係があり、少年の自分の罪は重くないだろうと主張する。
そんな佐藤に亘は「こらからしっかり教えてやる。リアルな大人の世界を」と声をかけた。
右京は人差し指を出して佐藤に「何本に見えますか?」と聞く。
伝説の右京は取調室で聴取を受ける鈴木に「もう1人の逮捕に協力してほしい」と持ちかける。それは伝説の詐欺師Xのことだった。
伝説の詐欺師Xの正体は…
Zこと佐藤は中岡の息子だった。佐藤は自分が誘拐されたことに気がついていない。中岡は身代金2億円を払ってしまったという。
それはXの犯行なのではないか。XはZにやられている。子供にやられたことが許せなかったのではないか。
佐藤は近眼である。中岡宅に送られた壊れた近眼のメガネは、佐藤がずっとアジトにいたことから、アジトの中にいた人物しかいない。
鈴木がアジトで隠し持っていたスマホで見ていたのは競輪の結果ではなく、身代金の確認をしていた。その日の競輪の結果は大荒れだったのだ。
伝説の詐欺師Xは鈴木だった。鈴木は角田が警察官であることを知っていて給付金詐欺を仕掛けていた。Zがパクられたら完全勝利で、Xがまた正当な評価を受けると見ていたからだ。
鈴木が右京と亘に「あんたら詐欺師になれるよ」と声をかけると、2人は無言で取調室を出ていった。
感想など
大人たちを騙してどこまで行けるのかを試してみたかった少年と、そんな子供に負けたことが許せずに騙し返す大人の「騙し合い」という詐欺師たちの醜い争いから、現代は改めて人の「裏の裏」を見極める高度な能力が求められることにゾッとしました。
大人を騙す快感に浸る少年詐欺師
「佐藤」という少年は、詐欺師の世界に潜入しました。
佐藤は「伝説の詐欺師X」という架空の人物を作り上げて、それまで最強と言われていた「伝説の詐欺師X」に勝ちました。
子供が大人の世界に飛び込んでどこまで行けるのか。少年は詐欺行為をすることが目的ではなく、大人の詐欺師を騙すことに快感を求めていました。
佐藤は家出して全日本給付金センターという詐欺グループに参加したメンバーでありながら、詐欺の契約をひとつも取ることができませんでした。しかしそれは契約を取れないことで自分が伝説の詐欺師Zから最も遠い存在であることを印象づけるための芝居でした。
少年が遊び感覚で大人を騙し続けていたという真相には、驚きを超えて恐怖を感じます。
(画像引用=テレビ朝日)
ネット社会では、子供は大人が求めている情報と同じものを容易に得ることができます。
給付金詐欺のグループの構成員は、高度な知能とは無縁なチンピラたち。ネット世代でありながら、いわゆる情報弱者であったため、少年は周囲の大人を簡単に騙すことができました。
少年に必要だったのは、詐欺師グループによる最新の詐欺の手口などの情報と、アジトに潜入する勇気でした。
目の前で詐欺グループのメンバーがリーダー格の男にボコボコにされても、いっさい動じませんでした。それは自分がNo.1の存在だから。
子供に騙された仕返しをする大人詐欺師
「伝説の詐欺師Z」に負けた「伝説の詐欺師X」こと「鈴木」は、Zが誰なのかを見抜きました。
大人の自分が子供にやられたことが許せませんでした。
そこで鈴木はZに仕返しするため、わざと警察官を詐欺の被害に遭わせて、Zを検挙させようとしました。
ただし、ただZを警察に差し出しただけでは「伝説の詐欺師」としての名誉を復活させるには足りないと考えたのでしょうか。
Zが誘拐されたことに仕立て上げ、その親から2億円を奪う計画を立てました。
そして見事に2億円を手に入れた…とほくそ笑んだのも束の間、右京さんによって、Zだけでなく自分の正体までも暴かれてしまいました。
この事件の捜査に右京さんが絡んでいなかったら、詐欺師Xの一人勝ちでした。
私たちの身近に存在する「全日本給付金センター」
テレビ、新聞、ネットなど、あらゆる媒体で詐欺の被害に遭わないようにするための啓発がおこなわれています。
それでも被害は無くなりません。他人の言うことを簡単に信じてお金を渡してしまい、気づいた時には後の祭りになります。
こうした被害は、今回の給付金詐欺やオレオレ詐欺などにより、高齢者が狙われやすい傾向にあります。
新型コロナウィルスによる社会の閉塞感が続く中、公的機関から給付金がもらえるという情報を耳にしたら、飛びついてしまう人もいるでしょう。
水谷豊さん世代の60歳代近辺の視聴者が多い【相棒】では何度も詐欺師による犯罪が描かれています。
ドラマの内容による注意喚起が詐欺犯罪の減少に効果を発揮することを期待します。
大人も子供もあらゆる世代が狙われる
じゃあ、現代のネットやSNSに浸り情報社会の先端を行く若者世代が詐欺に遭わないかというと、そんなことはありません。
SNSなどで例を挙げると、有名人のライブのチケットやグッズを売りますと書かれた投稿に、たくさんの人が飛びつきます。もちろん善良な取引もありますが、その中には巧妙な詐欺を仕掛けているものも混じっています。中学生や小学生が引っかかるケースも少なくありません。
また、SNSだけ顔が見えない関係でも、TwitterのDMやLINEのやり取りでいつの間にか相手を信用してしまう事案も頻繁に見られます。
ネット恋愛のような形に持ち込まれてから「お金貸して」という頼みに応じて、お金を振り込んだら相手が垢消しをして逃げるといった手法の詐欺が蔓延しています。
情報商材を売りつける詐欺も流行しています。
これらの詐欺は、ある程度の知識を備えておけば、未然に防げることができるかもしれません。
(画像引用=テレビ朝日)
しかし、「伝説の詐欺師X」や「伝説の詐欺師Z」のような詐欺の究極に達する勢いの人物がおこなう詐欺を見破ることが、一般人の我々にできるのかどうか、不安になります。
リアルの社会に杉下右京は存在しません。右京さんのような、伝説の詐欺師すらも捕まえてしまう無双人間がいない現実では、今この時にも、簡単に見破ることができない高度な知能を伴った詐欺行為がどこかで発生しているかもしれません。
自分と接するあらゆる他人を疑う目を持つことは、心にストレスを与えてしまいますが、大切なものを守るためには、ある程度の犠牲は必要なのかもしれません。
この作品には、視聴した後に考えさせられる要素が詰めこまれています。
亀山薫時代から参加する徳永富彦脚本の妙
今回の脚本を担当したのは徳永富彦さんでした。【相棒】シリーズには亀山薫の時代から参加している欠かせない存在です。
このところ無国籍の少年の壮絶な生き様を描いた「少年A」や、右京さんのロンドン時代の相棒が凶悪犯だった「南井十シリーズ」など、徳永さんの脚本はシリアスなエピソードが続いていましたが、今回は【相棒】には珍しく、殺人事件が起きない話になりました。
【相棒19】は登場人物の葛藤や復讐を描く濃密なストーリーが続いていました。その中で、詐欺師による騙し騙されの二転三転するストーリー、いわゆる「コンゲーム」といわれる部類に属する脚本は、笑いの要素とシリアスな面が絶妙なバランスで描かれていて、さすが徳永さんと思わされました。
右京さんとその相棒を引き離して、それぞれが役割を果たしながら犯人逮捕に結びつけていく展開も久々でした。徳永作品でいうと神戸尊時代の「9時から10時まで」のような懐かしさ。
1話ごとに脚本家が異なることで「なんでもありの相棒」は内容の幅が広がります。それがこのドラマの良いところです。
その中でも緩急自在な徳永作品を今後も楽しみにしたいと思います。