●この記事は前編・後編の【後編】です
『アイドルの理由』は、筆者(せしる)がライブハウスで出会った『本気のアイドル』『本物のアイドル』『気になって仕方がないアイドル』について、アイドルさん本人へのインタビューを中心に紹介し、その「こころ」に迫る企画です。
今回はアイドルグループ『チギリ』のメンバー・檽 汐目(きくらげ しおめ)さんにインタビューし、ノンフィクション記事として紹介します。
前編・後編の2回に分け、この記事は後編です。
前編はこちら
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【アイドルの理由:檽汐目(きくらげ しおめ)前編】『相棒』の右京さんと結婚したかった女の子がアイドルになった理由
【アイドルの理由:檽汐目(きくらげ しおめ)前編】『相棒』の右京さんと結婚したかった女の子がアイドルになった理由 - ゆいパンク神推し『地下を照らす太陽』&気になるアイドルインタビュー&ライブ感想記

⬆️檽汐目
時代とともに変化するファン
アイドルを『共有』して『推し活』する楽しみ
2025年の夏頃から、アイドルグループの解散や活動休止、現体制終了、またはメンバーの脱退などの【お知らせ】がSNSで連鎖的に発表される事態が続いている。
運営、アイドル、ファン…界隈に絡む人たちの「疲弊」について意見が飛び交う場面が増えてきた。
アイドルやファンの数は減っていくのだろうか。それとも、アイドルの厳選や業界の再編といった未来志向の変化の芽が出始めているのか。
檽 汐目もアイドルグループ『チギリ』のメンバーとしての活動を終え、このインタビューを実施した時点では活動を休止している。(その後、3月17日に『チギリ』メンバーとしての卒業ライブ開催が決定した。)
界隈随一の哲学者である『きくらげ先生』は、現状を冷静に分析して、ポジティブに捉えている。
その根拠に挙げられたのが『推し活』という言葉だ。
きくらげ「いまのアイドル界って、時代が変わってきてるよね。趣味のひとつとしての『推し活』が国民的に浸透してきて、子供たちも特定の誰かを推してたりする子が多くなった。それをもっと細かく見ると『その人を好きになったから応援する』というより『みんなで楽しむもの』というニュアンスが生まれてきてる」
『推し活』とは、アイドルや俳優、アニメキャラクターやVTuberなど、自分が心から好きで応援する「推し」の存在を、グッズ購入やイベント参加、SNS発信などで積極的に応援する活動のことを指す。
2021年の流行語大賞にノミネートされた『推し活』は、生活に彩りや癒し、生きがいをもたらす文化として、2026年現在も定着している。
テレビで連続放送されたオーディション番組では、男女問わず特定の候補者を応援する人たちが気持ちを共有して『推し』が合格するために応援する動きが見られた。
学校や職場など、毎日のように同じ顔ぶれでトークする人たちが、休み時間に推しの話題で盛り上がる光景は日常に溶けこんでいる。
X(旧Twitter)、Instagram、TikTokなどの各種SNSで、知らない人同士が「同じ人を推している」という関係性で容易につながることができる。
きくらげ「ファンの人がポストで『きょう現場(ライブの会場)に行くので、見つけたら声かけてください』って発信するとか、このところ増えてきたよね。
スポーツとかと同じで、共通の趣味で仲良くなるみたいな、複数の人たちでアイドルを応援するっていう文化が広がってる。
面白いよね。アイドルを好きでとにかくアイドルを見に行っているっていう、一匹狼的なファンが少なくなった。前はもっと一匹狼がいたんだよ。イメージとしては、友達づくりの一環みたいな感じで推し活を始めた人が増えてるんじゃないかな」

ライブをしているだけでは知ってもらえない…自分たちを見つけてもらうためには?
『推し活』が日常化した現代社会の中で「地下」と呼ばれるアイドルの界隈が活性化するためには、どうしたら良いのだろうか。
きくらげ「メジャーなアイドルさん達が『アイドル』というコンテンツの入り口になってるのは間違いない。
『なんでアイドルのライブに行こうと思ったの?』って訊くと、最初はAKBグループとかハロプロとか、マスメディアに出てる人たちが入り口になってくれてる。
とくにテレビは、いろんな人がアイドルという文化に触れる機会がある。そこからどう自分たちの場所に引っ張ってこれるかだよね」
これは、私がプロレスを取材していた経験から、とてもよくわかる話だった。
私が取材に行っていたのは、当時は社会的にほとんど話題にならなかった「インディー系」の団体である。
そこに集まるファンも、プロレスを好きになった「入り口」は、地上波テレビで毎週のように放送されていた「新日本プロレス」や「全日本プロレス」などの「メジャー」だった。
いろいろなプロレスがあることを知り、自分の嗜好に刺さる団体や選手を見つけると、さらにハマっていく。
きくらげ「だから、やっぱり『腐ってもマスメディア』なんだよね。テレビの強いところは、みんなが日常的に見ているから。だけど、テレビをほとんど見ない人たちが増えてきた。一人暮らししている人で、家にテレビがない人も珍しくなくなったよね。
でも、その人たちもテレビの影響を受けてたりする。XとかTikTokとか見てると、たまにテレビ番組の切り抜きが流れてきたりするのよ。そのアイドルを応援したくなる『人柄』が出ているところをファンがうまく切り抜いて『この子、こんなに面白いんですよ』って広めてくれたりする。
人柄を見てもらえるって、すごく大事なことだと思う。YouTubeの企画動画とかでも、ふとしたところで出演者の素の人柄が出て、その切り抜きがSNSで流れて共感の輪が広がったりするよね」
テレビといえば、いつからか画面にテロップや字幕などが頻繁に表示されるようになり、視聴者から反感を買う流れがあった。
きくらげ先生は、YouTubeなどの動画はそれを逆手にとったために見やすくなったと話す。
きくらげ「YouTube系のいいところは、字幕があるところなんだよね。自動で字幕が流れる機能もできたし、動画の作成者がちゃんと字幕を付けているものもある。私、動画は基本、音声を流さないで見るのね。だから、何やってるのかわかんない時とかめっちゃあるんだけど、字幕さえついてれば、音を聴かなくても見れるし、面白いなって思える」

やっぱり、テレビとSNSはどっちも大事なんだね、とキクラゲ先生は、話しながら自分の結論を導いた。
そこには、アイドル本人としての経験も加味されている。
きくらげ「やっぱりね。ライブをやってるだけで人が増えるわけじゃないんだよ。アイドルのライブを実際に見てファンが増えるのは、せしるさんが推してる『ゆいパンク』さん(『CANDY MONSTER』や『僕と契約してライヴ信者になってよ。』などで活動)みたいな人。
ゆいさんは、歌とパフォーマンスで入り口になるチカラがある。凄いよ。それでも、まずライブに来てくれないと、生で見てもらえないし、知ってもらえない。じゃあどうしたら入り口になれるかっていうと、やっぱりメディアやSNSを利用するのがいちばんだよね。
メジャーだと『=LOVE』(イコールラブ)さんとかは、売れてるのに売れてないみたいに揶揄されることが多かったけど、1曲バズったらもっとたくさんの人に知ってもらえて、他のいい曲も聴いてもらえるようになった。テレビ番組にたくさん出るようになったし、好循環で広がった素敵な例だよね」
「私はアイドル『オタク』だけど、私を見に来てくれる人たちは『ファン』だと思ってる」
きくらげ先生の話に共感しまくった私は、現状のアイドル界についての、ある不思議について訊いてみた。
熱心なファンを指す『オタク』や、アイドルのカテゴリとしての『地下』というワードだ。
とくに『オタク』は一般社会に浸透し、受け入れられつつある言葉だが、ネガティブな印象も根強く残っている。
平成の時代。1989年から1990年にかけて発生した東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件。2008年に起きた、秋葉原の無差別通り魔殺人事件。
それぞれの事件の犯人である宮崎勤と加藤智大には死刑の判決が下された。
宮崎と加藤が『オタク』の属性であることがマスコミから報じられると、当時は「これだからオタクは…」という『オタク』へのネガティブな印象が広がった。一度ついたイメージは簡単には吹き飛ばせない。
アイドル業界にとってファンを『オタク』と呼ぶのは印象的にマイナスなのではないか。
私の質問に、きくらげ先生は独特な返答をした。
きくらげ「私は自身はアイドルオタクだけど、見に来てくれる人のことはファンだと思ってる」
きょとんとする私に、先生は慎重に言葉を選びながら分かりやすく説明してくれる。
きくらげ「アイドルが、自分を見に来てくれる人を『オタク』って呼んじゃうと『どうせ来るんだろ』みたいな圧がかかる感じがする。そうすると『アイドル』と『オタク』が対等な関係じゃなくなっちゃう。
それが『疲弊』につながる一因でもあると思うんだよね」
かなり的を射る話ではないだろうか。
そう、それなんだよ。『ファン』と『オタク』の違い。そこには大きな溝がある。ネガティブな印象があるかないか。確かに「疲弊」するのは、のめりこんで熱心に通いつめ、お金が無くなってしまう「オタク」が多いような気がする。
きくらげ「私は『アイドルオタク』だけどね」
アイドルであり『オタク』と『ファン』の違いを冷静に分析しつつ、自分を『アイドルオタク』と称するアイドル。
きくらげ先生が『チギリ』での活動から離れた数日後。私があるアイドルグループのライブを後方から眺めていると、観客の中にきくらげ先生の姿を見つけた。
フロアの構造を知り尽くしているのか、見やすい場所を確保して、ステージに立つアイドルに向けてサイリウムを振っている。
その姿こそ、オタクの見本だった。
この人は、不思議すぎる。

「私の考えを広めたら、世界が平和になる。世界平和って、みんなの理想だよね?」
アイドルオタクのアイドルは、なぜアイドルとしての活動を追求しているのだろうか。
前編で触れた、彼女が大切にしている『救い』と『掬い』の延長線上にあるものとは。
きくらげ「どうしたら世界がよくなるだろうって考えた時に『私の考え方を世界に広めたらいいんじゃね?』っていう答えにたどり着いた」
いきなり、とんでもなく壮大な話が出てきた。
そういえばさっき「『相棒』の右京さんが実際にいれば、世界が平和になるよね」とは話していたが……
きくらげ「自分と同じ考え方の人間だけになったら、世界がよくなると思ってる。ヤバい思想かな。これ、ちょっと柔らかく……マイルドな言葉に替えといて」
そのまま使用させていただきました。
きくらげ「本気なんだよ。私と同じ人間ばっかりになったら世界は平和になる。争い事が嫌い。暴力も嫌い。戦争も起こらないと思うし。
自分だけがよければいいとは思わない。たとえば『情けは人の為ならず』っていうことわざがあるじゃん?」
『情けは人の為ならず』ということわざは、しらしば誤用される。
本来の意味は「人に親切にしておけば、巡り巡って自分によい報いが返ってくる(情けは人の為ではない)」。
しかし「情けをかけて甘やかすと、その人の自立を妨げ、結果としてその人のためにならない」という意味で使われがちだ。
「相手のためにはならない」ではなく「相手のためだけではない」と理解するのが正解となる。
きくらげ先生は、言うまでもなく正しい使い方のほうの『情けは人の為ならず』を自分に当てはめていた。
きくらげ「世界平和って、みんなの理想じゃん。みんなそうしたら、不幸が減る。私は世界平和を目指してるし、みんなも目指してほしい。
ただ、自分が書きたい歌詞は、直接的に『世界平和になれよ』みたいな話にはしないかな」
きくらげ先生の好きなアーティストは『back
number』。
きくらげ「『back number』ってさ、人に話せないような、自分でも正当化できないような、イビツな感情を正直に歌にしてくれるから共感を呼んでるんだと思う。
自分がそれを発信しなくても、代わりに言語化してくれる人がいる。そういうのも、音楽による間接的な『救い』じゃないかな」
そんな間接的な『救い』を、きくらげ先生も歌詞に当てはめようとしている。
『相棒』を見て、右京さんのことが結婚したいほど好きで、その脚本に夢中になっていた女の子が大人になって、ちょっと回りくどい表現を使いながら、世界平和を目指す。
目の前にいる女性は、本当に右京さんと結婚しているのではないか。いや、好きすぎて、右京さんそのものになってしまったか。
『右京さんが実際にいたら、世界が平和になるよね』
ひょっとしたら、きくらげ先生は本当に世界平和を実現してしまうのではないか。

檽汐目は理想のアイドル像について考え続け、そして…
そんなきくらげ先生が理想とするアイドル像は『自分のやりたいことを、置きにいかずにやり続ける』人。
さきほど『オタク』ともに私がネガティブな言葉の例として挙げた『地下』という言葉を、きくらげ先生は『ライブアイドル』に変換する。
きくらげ『ライブアイドルって、メジャーのアイドルとは違って、同じ振りでも個性が強くてみんな違う動きに見えるところが好き。揃ってないとかじゃないよ。同じことをしてるのに違って見える。
歌もそうで、個性が強い人が多いよね。ハスキーだったり萌え声だったり、そういう、個性を殺さないステージが好き。ファンとの距離が近いから、魂が伝わってくるんだよね』
アイドルでありアイドルオタクでもあるキクラゲ先生らしい、双方から見た理想。
きくらげ「『チギリ』を辞めることが決まってから『自分のやりたいことってなんだろう?』って、また考えてみた。やっぱり作詞がしたいと思った。
あと、檽汐目のことを好きだと言ってくれた人にまた会いたい。ファン層が別の界隈に行っちゃったら、その人たちと会えなくなっちゃうから、それは寂しい。
でも、そこで妥協すると、自分が本当にやりたいことが曖昧になっちゃう気もして。やりたいからそれがやりたいのか、会えそうだからそこに行きたいのか。今、それを考えてる」
檽汐目は『考えることに終わりはない』という、哲学の「たったひとつの大切なこと」を実践し続けている。
きくらげ「哲学も音楽も、人生を豊かにするチカラもあるけど、たとえ人生が豊かにならなかったとしても、不幸の加減を底上げするものだと思っていて。
音楽を聴いたり、アイドルを見たところで、お腹がいっぱいになったり雨風が凌げるわけではない。でも、音楽とか、そのアイドルの存在で、精神が落ちきらないというか、この人がいるから頑張ろうっていう、最後の砦みたいな存在のアイドル。それが『掬いあげる』っていう意味の『掬い』だと思ってる。
だから、いろんな人に出会いたいし、出会った人には忘れないでいてほしい!」

檽汐目はあきらめない。
そして、またステージに立つ日が、来る。
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⬇️2026年3月17日 檽汐目『チギリ』卒業公演開催決定!

🗓2026年3月17日(火)
📍文京HEAD POWER
⏰open17:40/start18:00
💰予約¥2,500/当日¥3,500
チケット予約はこちら
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